「プーチン圧勝」や「ほぼトラ」は何を意味する? 崩れ始めた「文明が進歩に向かっているという前提」
今年11月にアメリカの大統領選挙が行われます。トランプ前大統領が再選するかどうかに注目が集まっており、「もしトラ(もしかしたらトランプ)」から「ほぼトラ(ほぼトランプ)」と言われるような状況になっているとされます。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、こうした状況について「これまで信じていた何ものかが崩れていくような感覚があるのではないか」といいます。若山氏が独自の視点で語ります。
世界が崩れはじめた
いろいろと不正があったと報道されているが、プーチン氏はロシアの大統領選挙で圧勝した。ウクライナ戦線においてもロシアの攻勢が伝えられ、長期的な戦闘力でもロシアがウクライナを圧倒しているようだ。 一方、アメリカの大統領選挙においては、共和党の予備選でトランプ氏が勝利を続け「もしトラ」から「ほぼトラ」がささやかれている。そして世界のあちこちの国で、極右政党が躍進している。また米軍は1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約の締結以来初めての中距離ミサイルをアジア太平洋地域に配備するという。 何かが崩れているような気がする。 僕だけではないだろう。世界中の多くの人が、これまで信じていた何ものかが崩れていくような感覚があるのではないか。 何を信じていたのか。もちろん宗教や民族や社会体制によって価値観が異なることは認めるにしても、われわれがなんとなく信じていた普遍的な価値、すなわち平和主義、民主主義、人道主義、個人の自由、法の支配、科学的真実の力といった、人類に共通する価値が存在し、紆余曲折はあるにせよ、結局歴史はその方向に向かう、というぼんやりした楽観があったのではないか。冷戦時代のソビエトも、社会主義がもつ歴史的普遍性の力(唯物弁証法)をもって、旧来の資本主義体制と戦おうとしていたのだ。 しかし今、その普遍的価値観が崩れている。 僕はもともと「科学技術は時とともに進歩しているが、社会制度はどうなのだろう、複雑化はしても進歩はしていないのではないか」という疑問をもっていた。それでも一般には、社会制度も含めて人類の文明は進歩に向かっているという前提があったような気がする。この「普遍的価値観の崩れ」が意味するものは、人類の文明の暗転ではないか。ひょっとしてわれわれは「闇の時代」に向かっているかもしれない。