ウクライナ戦争に考える 現代の領土拡張は得か損か?
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから4カ月以上が経過しました。ウクライナ側はもちろんのこと、ロシア側も大きな被害を出していますが、いまだどのような形で終結するのか見通しが立たない状況です。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「現代における国家の領土拡張には、メリットよりデメリットの方が大きい」と指摘します。若山氏が独自の視点で論じます。
組織拡大は人間の本能か
ロシアのウクライナ侵攻で、久しぶりに、武力によって領土拡張に走る大国の野望を目の当たりにした感がある。もちろんわが国にとって他人ごとではなく、国会でもマスメディアでも参院選でも、国防議論が盛り上がっている。 しかし今のところ、ロシアの野望は成功しないように見える。日々の戦況の分析と展望は専門家に任せるとして、たとえどのような決着を見るにせよ、その後もロシアという国が国際社会から受けるであろう短期的な経済的制裁と長期的な道義的非難を合わせれば、メリットよりもデメリットの方が、はるかに大きいと思われるからだ。なぜプーチンは、そして彼を支えるロシア人は、このような武力侵攻の決断を下したのであろうか。 国にしろ、官庁にしろ、企業にしろ、あるいは非公式のグループにしろ、人間がつくる組織には、常に拡大に向かう「本能」ともいうべきものがある。拡大する組織の構成員にそれなりのメリットがあるからだ。上層部には、組織が大きくなればその上に立つというメリットの規模も大きくなるし、また下層部もこれに準じたメリットを享受できると考えられる。その意味でロシアの行動は本能的だが、そこにはそれなりの苦労と危険がともなう。組織拡大の成功には条件があり、指導者がその判断をあやまれば、その構成員は悲劇にみまわれ、場合によっては組織そのものが壊滅するのだ。 現代における国家の領土拡張には、メリットよりデメリットの方が大きいように思われるのだが、その損得と必然性の歴史を検証してみたい。