人は「より良い暮らし」を目指すべきなのか…日常生活の「美しさ」への様々な向き合い方
若手美学者である青田麻未さんの新著「『ふつうの暮らし』を美学する 家から考える『日常美学』入門」では特に「家」に焦点を当てて、そのなかで現れるさまざまな日常美学の問いを扱っています。11月21日には発売を記念して、同じく美学者である難波優輝さんとの対談が行われました。その対談の様子を難波さんが振り返ります。 【写真】人は「より良い暮らし」を目指すべきなのか…日常生活の美しさとの向き合い方
個人の生活をどのように変えるべきか/変えないべきか
日常美学という領域は、私たちの最も身近な生活に息づいている美的価値を再発見し、その意義を問う学問である。今回、異なる日常美学観を持つ二人の美学者による対談を行った。 二人が共通して取り組んでいるのは「日常美学」と呼ばれる、私たちの暮らしのなかで働く感性を考察する分野である。日常美学者たちは、掃除、洗濯、料理、部屋づくり……。何気ない日常のなかでどんな美的経験がなされているのかを考えてきた。 青田による『「ふつうの暮らし」を美学する』は日本における日常美学の唯一の入門書であり、そこでは日常美学の代表的なトピックにとどまらず、Vlogの美学も扱われている。私は、この本とは異なる立場から暮らしを考えてきた。 対談のなかで、日常美学の多様性とその可能性が浮き上がってきた––––特に、日常美学における「改良」という概念がどのように捉えられるべきか、またその過程において個人の生活をどのように変えるべきか/変えないべきかという議論に光が当たった。この立場の違いは、そもそも人々の「日常」が違うのだから自ずと「日常美学」も異なる、という事態を現しているようだ。 今回、対談のレビューというかたちで、難波による振り返りのテキストをお送りする。とりわけ「日常の美的価値とは何か?」という問いを中心に、日常美学のアプローチの違いや、改良という概念がどのように人々の生活に影響を与えるのかを振り返っていこう。二人の美学者が持つ、暮らしを巡る哲学的アプローチの違いは何か。議論を通じて、美学的な思考の多様性を垣間見ていただければさいわいだ。