5年前の事故で車イス生活の失意…「外に出る勇気」を与えてくれたパラ新種目バドミントンで里見紗李奈が涙の初代金メダル
弾ける笑顔と気合満点のガッツポーズ、そして歓喜の涙を散りばめながら、東京パラリンピックから正式競技になったバドミントンにニューヒロインが生まれた。 大会第12日目の4日に国立代々木競技場で行われた女子シングルス(車いすWH1)決勝で、世界ランク1位の里見紗李奈(23・NTT都市開発)がスジラット・ポーカン(35・タイ)に2-1で逆転勝ち。パラリンピックの新競技バドミントンで、男女を通じて日本勢第1号の金メダリストになった。 競技歴わずか4年半で世界の頂点に立った里見は大会最終日の5日に、山崎悠麻(33・NTT都市開発)とのペアで同じく世界ランク1位に立つ女子ダブルス決勝で中国ペアと激突。有終の美を飾る2個目の金メダル獲得を目指す。
代々木に響く「ハイッ!」の声
トレードマークと磨き上げた武器を融合させながら、里見は20-13とリードして迎えた、金メダルを射止めるマッチポイントをもぎ取った。 「ハイッ!」 自らがサーブを打つ前に必ず発している大きなかけ声が、無観客の国立代々木競技場に響きわたる。ポーカンのリターンから始まったラリーの17本目。相手の短いショットがネットにかかった瞬間に、ポイントを奪うたびに左手でガッツポーズを作りながら発してきた「よーしっ」という叫び声に、歓喜の涙が加わった。 「本当に夢みたいで、信じられないぐらい嬉しい。この日のこの瞬間のために頑張ってきたので、目指した金メダルを獲得できて最高に嬉しいです」 頂点に立った直後に里見はあふれんばかりの涙をこらえながら、万感の思いを込めた第一声を絞り出した。55分間におよんだ決勝で何度も制してきたラリー。最後のポイントをもぎ取るまでの応酬で、里見は得意とするショットを3度も繰り出している。 後方を狙われた場面で車いすを移動させる距離を必要最小限にとどめ、その上で上半身を大きくのけぞらせながらリターンを放つ。最初の、3本目の、そして8本目のリターンで里見は得意技を繰り出し、8本目の直後にポーカンが根負けした。 大会が始まる前に、里見は自らの武器に対して大きな自信を持っていた。 「ちょっと追いつけなくなったときや苦しいなかでも身体を伸ばして、ギリギリでシャトルに触ることができるので、そこを見ていただけたら面白いんじゃないかと思います」 相手のショットに対して車いすを前後左右に急発進および急停止させる試合中は、必然的に腕に大きな負担がかかる。里見が愛用している、ところどころにピンク色があしらわれた黒いグローブは、その指先に1試合だけで穴が開くほど大きな負荷がかかる。 ましてやシングルス決勝は、予選ラウンドで唯一敗れている尹夢口(19・中国)との準決勝、ポーカンを含めたタイのペアとのダブルス準決勝に続く3戦目だった。腕への負担を軽減させる意味でも、のけぞりショットがもたらす効果は大きかった。対照的にポーカンは決勝を戦いながら、ゲームの間に腕へコールドスプレーをかけていた。 「初戦から中国の選手にリベンジという気持ちで戦って、そこで自分のなかで燃え尽きてしまったんじゃないかとものすごく不安だったんですけど、ダブルスの準決勝でまた盛り返して、決勝で憧れの選手と戦うことができて、勝つことができて……」 ここで図らずも言葉が途切れた。涙をこらえ切れなかった里見はちょっとだけ沈黙した後に、再び笑顔を取り戻しながら必死に声を絞り出した。 「ごめんなさい……すごく嬉しいです」
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