大怪我から5年…パラアスリートとして蘇り50歳の最年長金メダリストとなった女性サイクリスト杉浦佳子を勇気づけた言葉とは?
歴史に残る力走で東京パラリンピックの日本女子第1号にして、夏冬を通じて日本パラリンピック史上で最年長となる50歳の金メダリストが生まれた。 大会第8日目の31日に静岡・富士スピードウェイで行われた自転車の女子個人ロードタイムトライアル(運動機能障害C1~C3)で、パラリンピック初出場の杉浦佳子(50・楽天ソシオビジネス)が25分55秒76でフィニッシュ。2位のアンナ・ベク(41・スウェーデン)に22秒27の大差をつけて金メダルを獲得した。 今大会の日本勢で5個目の金メダルを獲得した杉浦は、これまでの最年長金メダリストだった1996年アトランタ大会の柔道男子71kg級王者・牛窪多喜男の46歳を更新。夏冬の五輪を合わせても、1984年ロス大会の射撃ラピッドファイアピストルで金メダルを獲得し、いまも最年長記録となる蒲池猛夫(故人)の48歳を上回る快挙を達成した。
「最年少記録は二度ないが最年長記録はまた作れる」
最後の直線に入った瞬間に杉浦は意識してギアを上げた。得意とする上り坂が続いたことだけが理由ではない。前を走るコロンビアの選手の姿がはっきりと見えたからだ。 今大会の女子個人ロードタイムトライアルは1周8kmのコースを2周、障害の程度が重いクラスの選手から1分間隔でスタートしていく。15人の選手が出場したなかで、9番目の杉浦は1周目でトップのラップを刻んでいた。 もっとも、最終的には実測タイムに、障害の程度ごとに定められた係数をかけた数字で順位を競う。ゆえに2周目を走り終えても、正確な順位はわからない。それでも1分先にスタートした選手を上回れば、メダル圏内でフィニッシュできると信じた。 「なので、コロンビアの選手をゴールまでに抜こうと思いました。それがロードタイムトライアルのいいところだったりするので」 すぐに立ちこぎの体勢になり、ペダルを踏み込むペースをグングン上げた杉浦は、瞬く間にコロンビア選手を抜き去ってフィニッシュ。14番目にスタートしたライバル、ベクのタイムが自身に届かなかったと知らされてもまだ半信半疑だった。 「本当に信じられなくて。係数がかかるじゃないですか。計算違いだったとか、後から速報が出たらどうしようしようと不安で……まだちょっとアンビリバボーな感じです」 金メダル獲得が決まった瞬間に、さまざまな快挙が打ち立てられた。自転車競技では3大会ぶり通算4個目にして、ロード種目および女子では初めて。そして、今大会の日本女子第1号。何よりも日本人で歴代最年長の金メダリストになった。 「今日はちょっと年齢を忘れていました」 ようやく笑顔を浮かべた直後に、具体的な年齢数を含めた質問が飛んだ。すると杉浦はおどけた様子を見せ、自身と周囲を笑わせながら言葉をつむいだ。 「あっ、また50歳って言いましたね。でも、最年少記録は二度と作れないけど、最年長記録はまた作れますよね……やばい、また調子に乗ってすごいことを言っちゃった」