木村敬一と富田宇宙のパラ五輪100mバタ金銀メダル独占を生んだ感動の友情とライバル物語とは?
4大会連続で挑んだパラリンピックで手にした通算8個目のメダルに、追いかけ続けてきた金色の輝きを初めて添えた。 東京パラリンピック第11日目の3日に東京アクアティクスセンターで行われた、競泳男子100mバタフライ(視覚障害S11)決勝で、世界ランク1位の木村敬一(30・東京ガス)が1分2秒57で優勝。4度目のパラリンピックで悲願の金メダルを獲得した。 ライバルとして木村と切磋琢磨し、プールを離れれば親友でもあるパラリンピック初出場の富田宇宙(32・日体大大学院)が1分3秒59で銀メダルを獲得。パラリンピックの競泳史上で、日本勢で初めてとなるワンツーフィニッシュの快挙を達成した。
「この日って本当に来るんだな」
ゴール板を叩いた瞬間に木村の脳裏に浮かんだのは、実はネガティブな光景だった。体力の消耗があまりにも激しく、心のなかで「負けたかな……」とつぶやいた。 しかし、直後に日本の競泳選手団を含めた関係者の大歓声が、東京アクアティクスセンター内に響きわたる。もしかしたら、と思い始めた矢先にタッパーを務める、パラリンピック競泳日本代表の寺西真人コーチから順位を告げられた。 何度も夢に見ては跳ね返されてきた金メダルをついに手にした。声にならない歓声を上げながら感情を表現する木村へ、隣のレーンを泳いでいた富田がロープ越しに抱きついてきた。タッパーから結果を聞いた富田も、自分の快挙のように喜んでいた。 お互いに頭をなでながら十数秒も称え合った。至福の喜びと究極の興奮が交錯するなかで、交わされた言葉を断片的に覚えている。 富田が「よかったね」と祝福すれば、木村が「ありがとう」と返す。短い言葉だけで十分だった。フィニッシュ直後から涙腺を決壊させていた木村は、プールサイドに上がっても声を震わせ続けた。 「この日のために頑張ってきた。この日って本当に来るんだな、と。特にこの1年はいろいろなことがあって、この日はもう来ないんじゃないかと思っていた時期もあったので、こうしてちゃんと迎えることができてものすごく幸せです」 何度も口にした「この日」とは、金メダルを獲得する日にほかならない。