なぜ悲願の金メダル(400m・車いすT52)を獲得した佐藤友祈は感動の大逆転に成功し泣いたのか…「このパターンが激アツ」
有言実行の大逆転劇の末に、東京パラリンピックに挑んでいる日本選手団で2人目、陸上競技では3大会ぶりとなる金メダリストが生まれた。 大会4日目の27日に国立競技場で行われた陸上男子400m決勝(車いすT52)で、前回リオデジャネイロ大会の銀メダリスト、佐藤友祈(31・モリサワ)がホームストレートで一気に加速。公言してきたゴール直前での差しきりで、先行していたレイモンド・マーティン(27・アメリカ)を逆転して悲願の金メダルを獲得した。 自らが持つ55秒13の世界記録は塗り替えられなかったが、それでも55秒39と従来のパラリンピック記録を2秒近くも更新。ロンドン、リオデジャネイロ両大会に続く3連覇を狙ったマーティンは55秒59で銀メダルを、4度目のパラリンピック出場だった上与那原寛和(50・SMBC日興證券)は59秒95で銅メダルを獲得した。
最強ライバルとのマッチレース
最後のコーナーを回った時点で、マーティンはレーサーと呼ばれる競技用車いすで2台分、3mほど先にいた。ホームストレートでグングンと追い上げていったが、残り20mを切った地点でまだ届かない。しかし、すべてが佐藤にとって想定内だった。 世界選手権で連覇中で、2018年には世界記録保持者にもなった得意種目。それでもパラリンピックの金メダルを手にしていない自分を、王者ではなくチャレンジャーと呼び続けてきた佐藤は、東京パラリンピックのレース展開をこう予測していた。 「一番のストロングポイントは後半の伸び。最後の加速が僕の武器だと思っています。ものすごいスロースターターなんですけど、後半になればなるほど速度が上がってくる。なので、ゴール直前で差して世界記録更新というパターンが一番激アツかなと」 競り合う相手として想定していたのはいつもマーティンだった。迎えた決勝。内側の4レーンを走るマーティンが、得意のスタートダッシュで飛び出す。外側の7レーンだった佐藤は先行される展開を承知の上で、ホームストレートでの勝負を待った。 「マーティン選手がインレーンにいたことでプレッシャーもありましたけど、それでも僕は後半から伸びてくる選手なので、最後に差しきることができました。見てくださった方もドキドキしながら、楽しんでもらえたんじゃないかなと思います」 残り10mで逆転する手に汗握るレースをこう振り返った佐藤は、2008年の北京大会を制した伊藤智也のパラリンピック記録(57秒25)を大幅に更新。金メダリストになった第一声では「5年前に……」と切り出すも、しばらく絶句している。 「リオでマーティン選手に敗れて、東京でのリベンジと世界記録も一緒にと思ってきた。世界記録にはちょっと足りず、それでもパラリンピック記録を大きく更新できました」 涙で声を震わせたのには理由がある。