今も指摘される“密放流”、10年に一度の漁業権切り替え──「ぜんぜん終わってない」ブラックバス問題
滋賀県立琵琶湖博物館の特別研究員であり、長年、琵琶湖の生態系保全に尽くしてきた中井克樹(61)は話す。 「われわれにとって、母なる琵琶湖を守るために、漁業者さんたちの生活を守るために外来魚を減らしていくのは当たり前のこと。人の手によって崩れたバランスは、人の手で取り戻すしかない。バサーは『密放流は絶対いけない』って言うんです。なのに、その違法なルートで入ってきた魚で遊ぶことには何の罪悪感も感じていないです。それっておかしくないですか」
「いてほしい」と願う声、ブラックバスを巡る“摩擦”
国内にはオオクチバス、コクチバスの2種のブラックバスがいて、いずれも特定外来生物に指定されている。特定外来生物とは、日本の生態系や人間の健康に害をもたらすことから、外来生物法で規制対象となっている外来生物のことである。 現在、特定外来生物に指定されているのは156種類。その中で、この2種だけは、他の種と大きく違う側面がある。 希少種を捕食してしまう外来生物は、人から煙たがられがちだ。だが、ブラックバスにはバサーを始め「いてほしい」と願う人たちが大勢いる。ゆえに激しい摩擦が生じるのだ。 中井は渋面をつくる。 「最初の頃は、ノーリリースに協力してくれた釣り人には、地域通貨券を配布していたんです。リリース禁止による駆除量も年間10トンぐらいになった。それぐらいだと、漁師さんが駆除してくれる量の数パーセントになる。ただ、リリース禁止というのは、お願い条例であって、罰則はない。なので、未だに人が見ていても平然とリリースしている」 ブラックバス問題に火がついたのは、一冊の本がきっかけだったと言われている。1999年に出版された『ブラックバスがメダカを食う』である。密放流の実態、ブラックバスによる被害を詳細に調べ上げた本だ。
バサー歴30年以上の経験を持つ関西在住の畦布真人(50)は、この本の登場をきっかけに考えを改め、バス釣りを楽しむと同時に、駆除釣りにも積極的に参加するようになったという。 「僕もバス釣りが好きだったので、最初、そういう風に言われるのは嫌だなというのがあった。でも、ネットの掲示板で双方の意見を聞くと、擁護派の人たちは話をそらしてばっかりだった。在来魚が減ったのは、護岸工事のせいだとか、水が汚れたせいだとか。そうではなくて『バスは害がない』というデータを提出しなければならないのに、誰一人、それができなかった。それでいて、自分たちは被害者だと思い込んでいたんです」 自然における強者と弱者。社会における強者と弱者。その二つの見方を整理しながら、畦布はこう続ける。 「バサーは自然環境下においては圧倒的な強者ですよ。さんざん密放流をして、今もバスで自由に遊んでいる。ただ、社会的立場は弱い。逆にバス釣りをしない人は、社会的立場は強いけど、自然環境下においては弱い。バサーに対して、ほぼ何もできなかったわけですから。なのに、バサーは社会的立場における自分しか見えてないから、いじめられていると思い続けている。どっちの立場でも優位に立ちたいというのはさすがにみっともない。ましてや、琵琶湖ではリリースしないという、最低限のルールさえ守れていないのに」 「僕はただバス釣りを楽しんでるだけならいいと思うんです。ただ、そこを超えて、自分の遊びが正しいと言い出すのは嫌なんです。バスがいることで失われているもの、悲しい思いをしている人がいることは理解しておくべき。それだけの話なんですよ」 ブラックバスにおける被害が社会問題したことで2004年、外来生物法が成立した。その後、ブラックバスを始めとする37種類の生き物たちが第一次特定外来生物に指定され、ここから世の中の流れは劇的に変わった。中井が振り返る。 「(バサーである)タレントや芸人さんたちが途端に、バス釣りのことは一言も口にしなくなりましたね。人気商売だからでしょう」