今も指摘される“密放流”、10年に一度の漁業権切り替え──「ぜんぜん終わってない」ブラックバス問題
今年5月、改正法が成立した外来生物法。2004年の制定時に、大論争を引き起こしたのが「ブラックバス問題」である。密放流や生態系への影響などを巡り、議論が過熱した。あれから20年近くがたち、すっかり問題は収束したかのようにもみえる。しかし専門家は「ぜんぜん終わってない」と話す。国内の4漁協に特例で認められているブラックバスの漁業権は来年、10年に一度の切り替えを迎える。問題の今を追った。(ライター:中村計/撮影:蛭子真/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部、文中敬称略)
釣り上げた外来魚はこの中に
国内最大の湖、琵琶湖の周囲には「外来魚回収BOX」がいくつも設置してある。そのボックスにはこう書かれていた。 〈釣り上げたブラックバスやブルーギルはリリース禁止です! 釣り上げた外来魚はこの中に入れましょう!〉 2003年、滋賀県は釣り上げたブラックバスなどの外来魚の再放流(リリース)を条例で禁止した。だが、実際は、ほとんどのバサー(ブラックバス釣り愛好家)は釣った後、そのまま湖に逃がしてしまっている。バス釣り特有の「キャッチ&リリース」と呼ばれるスタイルゆえのことだ。 「利益」と「不利益」――。 ブラックバスが生息する日本全国の多くの湖や池がそうであるように、琵琶湖でも、決して混じり合わない二つの立場が存在している。
400万年の古代湖、わずか十数年で破壊された歯車
バサーにとって琵琶湖は憧れの地だ。2009年、世界記録となる10.12キロのブラックバスが釣り上げられた湖であることからもわかるように自然のスケールが桁違いに大きい。湖周辺にはレンタルボート屋や釣具屋が所々に軒を連ね、フィッシングガイドもたくさんいる。日本有数のブラックバス経済圏だ。 その一方で、ブラックバスは琵琶湖にとって、減らさなければいけない魚でもある。 琵琶湖で初めてブラックバスが発見されたのは1974年のことだ。80年代に入ると、空前のブラックバス釣りブームが訪れる。80年代後半にはほぼ全国でブラックバスが見られるようになり、琵琶湖でもその数は急増した。さまざまな文献で関係者も告白しているが、十中八九、バサー側の人たちによる密放流のせいである。 そうなると、肉食性で、大食漢であるブラックバス被害が表面化するのに時間はかからなかった。琵琶湖では、郷土料理の貴重な水産資源であるニゴロブナ、ホンモロコなどが激減し、地元漁師たちが打撃を受けた。また沿岸部に生息していた希少種のイチモンジタナゴ、カワバタモロコなどが姿を消した。大規模開発や水質汚濁による環境悪化も無関係ではない。だが、同様に、ブラックバスによる影響も決して小さくはなかった。世界でも稀な古代湖である琵琶湖は400万年という歳月をかけて独特の生態系を築き上げてきた。その精緻な歯車がわずか十数年で破壊されてしまったのだ。