今も指摘される“密放流”、10年に一度の漁業権切り替え──「ぜんぜん終わってない」ブラックバス問題
「外来種の湖」とも呼ばれる芦ノ湖
「バス湖」の中では、日本で唯一と言っていいだろう、漁業者側と釣り人の対立構造がない湖がある。 「うちは150人ほど組合員さんがいるんですけれども、ブラックバスはやめた方がいいんじゃないかって話は一度も出たことがないんです」 そう語るのは、芦之湖漁業協同組合の組合長の福井達也である。 そもそも1925年、国内で初めて公的な許可を得てブラックバスが放流されたのが芦ノ湖だった。国民の新たな栄養源として試験的に繁殖されることになったのだ。 芦ノ湖はおよそ3100年前にできたカルデラ湖だ。比較的新しいだけでなく、接続する水系がほとんどないため、もともと水産資源が乏しかった。それゆえブラックバス以外にも、ニジマス、ブラウントラウトなど、多くの外来魚を放流していて、「外来種の湖」と呼ばれることさえある。 ブラックバスは全国的に漁業対象種にも深刻な影響を与えている。しかし、芦ノ湖は古くから人間の手が入っていた生態系ゆえ、繁殖の過程でバスが他の魚を捕食したとしても、「もともとあった生態系が壊される」という感覚にはならなかった。福井はこう話す。 「日本で初めて入った場所なので、みんなブラックバスに愛着を持っているし、プライドもある。『芦ノ湖にバスっているんですか?』みたいに言われたら、悲しいですよ」
特定外来生物をめぐる「ねじれ」
全国にはブラックバスの漁業権が認められている漁協が4つある。この芦ノ湖と、富士五湖のうちの3つ、河口湖、山中湖、西湖である。いずれも外来生物法が施行される前から漁業権を持っていて、4湖の漁協は釣り人から遊漁料を徴収することができる。 ただ、富士山を取り巻く3つの湖は、漁業権を申請するまでの過程が芦ノ湖とは大きく異なる。89年に漁業権を得た河口湖では、ブラックバスが初めて確認されたとき、意図的な放流ではなかったため、駆除する方向で道を探っていた。しかし、その困難さを前に、いっそのことブラックバスの漁場にした方が経済効率は高まると判断を下したのだ。結果、遊漁料収入が大幅にアップした。そのため、追随する形で、94年に山中湖と西湖も漁業権の免許を受けた。 漁業権を持つと、漁協はその魚種を増殖させる責任を負う。つまり、ブラックバスを放流し続けなければならないのだ。放流は外来生物法では禁じられているが、漁業法において義務なのだ。ここに特定外来生物をめぐる一つの大きなねじれがある。 福井が増殖義務の舞台裏をこう明かす。 「漁業権の切り替えは10年に1回で、その間は基本的に同じ量を放流し続けなければならないんです。前々回の切り替えが2003年で、そのとき決められた量を2013年まで守らなければいけなかった。あれは厳しかったですね……」 2005年に外来生物法が施行され、そこからバス釣り業界は冬の時代に突入した。それでも変わらず大量のバスを放流しなければならなかった。 「もう、いろんな養殖業者からかき集めて、かき集めて。他の湖で駆除されたバスを仕入れていたこともあるんですけど、そういうバスって雑に扱われているので、すぐ死んじゃうんです。その当時と比べると、現在のバス放流量は適正な数字なんじゃないかな。ほどほどに釣れるし、魚のコンディションもいい」