今も指摘される“密放流”、10年に一度の漁業権切り替え──「ぜんぜん終わってない」ブラックバス問題
「ぜんぜん終わってない」ブラックバス問題
来年、実は、今後のブラックバス問題の未来を左右しかねない、ある「審判」が控えている。10年に1度のブラックバス漁業権の切り替え期が巡ってくるのだ。 芦ノ湖以外の3湖を管理する山梨県サイドは、前回の切り替え、ブラックバスについて「(現状は)本来好ましいものではない」とし、いずれは「免許の終了を目指す」と答えている。免許の切り替えがなされなければ、大きな一石を投じることになるのは間違いない。ただ、現実問題として、一部の地元経済と深く関わってしまっている以上、そう簡単ではないだろう。 釣りたい人と、駆除したい人。その棲み分けはいろいろな問題を含みながらも進み、ブラックバス問題は収まるところに収りつつあるようにも映る。だが実際は、まだまだ現在進行形である。中井はこう警鐘を鳴らす。 「バス問題って、もう決着してるって思われていますけど、ぜんぜん終わってない。密放流は今も続いている。特にひどいのはコクチバス。日本全国の河川水辺の国勢調査を見ると、オオクチバスとブルーギルの生息数は高値安定。それをコクチが猛追している状況なんです。オオクチと違い、コクチは遊泳力が強いので、渓流でも平気で泳げる。今度は日本の川魚が標的になる可能性があるんです」
コクチバスが河川に入られてしまうと、これまでオオクチバスに大きな影響を受けなかった魚種が危機に晒される。さらに、湖と違い駆除の難しさは格段に上がってしまうのだ。 中井が嘆息する。 「とはいっても、外来種問題は、世の中全体から行けばマイナー案件ですからね……」 どの外来種問題も元をただせば人間が自ら招いたものだ。自作自演の悲喜劇。そんな印象さえ受ける。あと3年で、ブラックバスが日本に持ち込まれてからちょうど100年だ。確かに、人間以外の生物の問題など、大半の人が見向きもしないのかもしれない。しかし、人間が人間の愚かさと向き合うのに、これほどの「案件」はそうはない。 --- 中村計(なかむら・けい) 1973年、千葉県船橋市生まれ。ノンフィクションライター。『甲子園が割れた日 松井秀喜 5連続敬遠の真実』(新潮社)で第18回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧幻の三連覇』(集英社)で第39回講談社ノンフィクション賞を受賞。2022年4月まで『週刊文春』誌上で連載した「笑い神 M-1、その純情と狂気」が第28回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞・作品賞を受賞。同連載はこの秋に書籍化する予定。好きな生物の鳴き声ベスト3はヒグラシ、カジカガエル、アカショウビン。