じつは、ベテランも二分している…トレッキングポール「1本使い・2本使い」論争に、運動生理学者の登山家が放つ「じつに納得の一言」
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】下山コースで脚が「ガクガクになる」なら、やったほうが「ラクになる」歩き方 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、トレッキング・ポールの使い方について解説します。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
トレッキングポールの利用
前回の記事では、下りで疲労しない歩き方をご説明しましたが、その際にあげた図「同じ人がさまざまな下り方をしたときの着地衝撃力の違い」を見ると、トレッキングポールの使用も有効であることがわかります。着地点の近くにポールをしっかり突いて、腕の支えも使いながら身体をゆっくり下ろせば、下半身への衝撃力をかなり小さくできます。 注意すべき点としては、着地した後にポールを突いている人をよく見かけますが、これでは衝撃力の緩和には役立ちません。
1本がよいか2本がよいか
トレッキングポールを使うとき、1本がよいか2本がよいか、という議論があります。 脚にかかる衝撃力を小さくするには、2本で使うほうが効果が高くなります。しかし、そうすると両手がふさがってしまい、歩きにくい下り斜面(木の根や岩混じりの所など)ではむしろ転びやすくなる、また転んだときにも危ない、という指摘もあります。 どちらの指摘ももっともです。 つまりトレッキングポールの利用は、登山者の経験・技量・体力、そしてさまざまに変化する登山道の様相との関係で、一律な正解はないものと考えるべきです。一律な正解を求めようとすると、臨機応変さを失うことになります。
適用の幅が広い使い方をあげるとすると…?
その中でも、適用の幅が広いと筆者が考えている使い方をあげるとすれば、ストラップには手を通さず、1本で使用するというものです。 こうすると、身体を斜めあるいは横にして下る場合に、左右への持ち替えが容易にできます。いざというときには手放すこともできます。なお、岩場のような危険箇所では、面倒がらずにバックパックに収納することも大切な心得です。 トレッキングポールを使う理由として、脚力に自信がないからという人は多いでしょう。しかしこのような人では、腕力もやはり弱いでしょうから、腕もすぐに疲労してしまい、使いこなせない可能性があります。そうなるとポールはむしろ邪魔物になってしまいます。 脚力や腕力が弱すぎる人では、ポールを使っても、歩き方の工夫をしても、安定した下り方はできません。 登山の指導者はよく、体力が弱くても上りではなんとかなるが、下りではどうしようもなくなってしまう人が多い、と言います。このような人では、ふだんから筋力トレーニングをして、最低限の筋力を身につけておくことが必要です。 *次回は、登山の楽しみでもあり、また切っても切り離せない「栄養補給」について取り上げます。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)