米雇用統計とコロナ禍の「所得減なき大量失業」
5月の米雇用統計(6月5日発表)は、マクロ経済指標の集計・作成の難しさを痛感させる結果でした。後述の通り雇用統計の数値は著しく改善しましたが、その解釈は非常に大きな幅を持つべきでしょう。ただし、以下に示すデータに鑑みると、少なくとも5月の雇用統計の調査時点(12日を含む週)までに労働市場が好転していた可能性は高そうです。(第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミスト) 【グラフ】欧米経済、コロナ禍から復調気配 小売・娯楽施設への移動が増加
失業率は高水準ながらも低下
数値をみていきます。まず最も注目度の高い非農業部門雇用者数(NFP)は前月比で250万人増加しました。事前の市場予想が750万人減少でしたから、実に900万人もの上振れです。市場予想とのズレに関しては、以下のように説明することができます。 通常、エコノミストは毎週発表される新規失業保険申請件数などから判断して予想値を算出します。5月は雇用統計調査週に該当する週の新規失業保険申請件数が著しく増加していたため、エコノミストは5月も雇用減が続いたと予想したようです。しかしながら、5月の新規失業保険申請件数はテクニカルな問題によって数値が嵩上げされていたとみられます。3月以降の外出制限で莫大な件数の失業保険が申請されたために処理遅れが生じ、本来は計上済みであるはずの申請が5月にずれ込んだ可能性が指摘されています。 またそれ以外の要因として、4月中旬以降の経済活動再開のペースが予想以上だったこと、中小企業向け給与支援プログラム(PPP)の効果が発現したことも考えられます。業種別では、飲食店などで137万人の雇用増が認められたほか、建設、教育、小売、製造業など広範な業種に回復の兆候がみられました。 失業率は13.3%へと1.4%ポイント低下しました。米労働省は、集計が必ずしも正確ではなかった可能性があるとして、実勢の失業率は3%程度高い可能性があると補足説明をしましたが、それでも同基準で作成した失業率は4月との対比では改善していました。基準調整後の失業率は4月が19.5%、5月は16%でした。また広義失業率と呼ばれるU6失業率(6種類の失業率のうち最も広義のもの)をみても、5月は21.2%と依然高水準ながらも4月の22.8%からは低下していました。ちなみにU6失業率とは「現在は職を探していないが働く用意のある人」や「正社員になりたいがパートタイム就業しかできない人」を失業者としてカウントして算出した失業率です。 次に平均時給ですが、これは解釈に注意が必要です。5月は前月比▲1.0%、前年比では+6.8%(4月は+7.7%)へと減速しましたが、これは相対的低賃金雇用者数の復職を反映したもので寧ろポジティブです。4月は相対的低賃金労働者が大量に解雇されたことで“平均”でみた時給は増加し、それまでのトレンドであった3%台から大幅に加速していました。