コロナ禍の世界経済 楽観と悲観を映し出す「銅」と「原油」
20日の米ニューヨーク原油先物相場で米国産標準油種(WTI)の価格が1バレル=マイナス37.63ドルをつけ、史上初めてマイナス価格を記録した。新型コロナウイルスによる世界経済への影響が報じられる中で、こうした指標をどう見ればよいのか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【画像】東京五輪「中止」でも日本経済は終わらない
持ち直してきた先行指標の「銅」
世界経済の強さを映し出す鏡として有用なコモディティ価格(商品市況)が奇妙なメッセージを発しています。「銅」が景気の回復(期待)を映じて反発する一方、「原油」が歴史的低水準へと下落しています。この乖離が何を意味しているのか、それぞれの背景を整理しつつ読み解いていきたいとみたいと思います。
まずは、4月に入って底打ち感が明確化してきた「銅」から考えてみます。銅は、ありとあらゆる工業製品に用いられるため、その価格変動は景気の強さを映し出すといわれており、実際、その動きは製造業の景況感と密接に連動します。また、その値動きは株価に先行することもしばしばあるため「炭鉱のカナリア」「ドクターコッパー」といった異名も持ちます。 その嗅覚をいかんなく発揮したのは株式市場で「コロナショック」が発生する前の1月下旬から2月上旬にかけてです。2月上旬といえば、「新型コロナウイルスは中国とアジア地域の一時的問題」とグローバル金融市場で軽く扱われ、欧米の株価が最高値更新を続けていた時期です。その頃に銅価格は急落の第1波を観測しました。今になって考えると、銅は世界経済の減速に警鐘を鳴らしていたのです。その後、3月中旬になると銅価格は急落の第2波に見舞われます。欧米に新型コロナウイルス問題が拡散し、金融市場が大混乱に陥り、投げ売りの対象にされたためです。 しかしながら、3月の終わり頃から銅価格は持ち直しに転じます。各国の政策対応が奏功し、金融市場のパニックが最悪期を脱したことが一因ですが、本質的な理由は中国経済の最悪期脱出を起点とする世界経済持ち直しへの期待でしょう。世界の工場と称される中国では3月中旬頃から徐々に経済活動の再開が進められ、それに伴って銅の需要が持ち直したと考えられます。 実際、中国の製造業PMI(企業景況感調査)は3月に鋭く回復し、貿易統計では銅の輸入量増加が確認されました。これが銅価格反発の背景ではないでしょうか。また4月下旬頃に欧米各国が段階的な経済活動再開の方針を示したことも銅価格反発の一因です。このように「銅」の底打ちは、世界経済の回復期待が込められているようにみえます。