米雇用統計とコロナ禍の「所得減なき大量失業」
雇用統計だけでは反映し切れない
最後に、5月雇用統計で最も重要なことは、雇用統計だけでは米国家計の状況を反映し切れないということです。一般論として雇用統計が注目されるのは、賃金動向を把握していれば、GDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費の動向を掴めるからです。したがって、通常時において雇用統計の改善は、ほぼダイレクトに消費の増加を意味しますから「雇用統計さえ見ておけば」という空気すらあります。 しかしながら、現在の局面は例外的です。というのも、大量の失業が発生すると同時に政府からの給付金、失業保険(及び上乗せ)給付といった異例の家計救済措置が講じられているからです。それらを含めた米国の家計状況は雇用統計だけをみていたのでは分かりません。こうした措置によって、コロナ危機以前よりも手取り収入が増加したケースも少なくないとみられ、実際、4月の米国の家計収入は前月比で10%強と著しく増加していました。いわば、所得減なき大量失業という奇妙な状況が現在の米国です。 こうして考えると、雇用統計を過度に重視することは控えたいところです。もちろん、雇用統計の改善そのものは朗報ですが、米国家計の全体像を把握するには別途、商務省が公表する所得データを確認する必要があります。
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