ホンダと日産、経営統合の死角…本田宗一郎が「恐ろしい」と語った魔物とは?
日本を代表する自動車メーカー、ホンダと日産自動車が経営統合へ向けて協議を進めている。そこに見落とされている「死角」はないか? 今こそ胸に刻むべき、ホンダの創業者・本田宗一郎の言葉を紐解いてみよう。(イトモス研究所所長 小倉健一) ● 本田宗一郎が「恐ろしい」と語ったもの 自動車業界で大きな資本提携、経営統合が起きようとしている。ホンダと日産自動車という、日本を代表する自動車メーカー2社が、会社をひとつにまとめる話し合いを始めたのである。両社は12月23日の取締役会決議で、計画を進めるための基本的な約束事を決める見通しだ。 これまで電気自動車の開発で協力関係にあった2社だが、今度は会社そのものをひとつにするという、とても大きな決断をしようとしている。具体的には両社の上に新しい会社(持株会社)を作り、2社が力を合わせて事業を進めていく計画である。 ホンダの創業者であり、日本の経済史において伝説の経営者ともいわれる本田宗一郎は、著書『会社のために働くな』で「人間の気分というものは恐ろしいものだ」とも述べている。 「つねに深く観察していないと大変なことになる。一時期つかんだ気でいて安心していると、はねっ返りが恐ろしい」という指摘は、まさに現在の日本メーカーの状況を言い当てている。日産は電気自動車の分野では、中国を含む世界の車メーカーの先駆者的存在であった。しかし、中国では多くの後発車に市場シェアを奪われ、販売が非常に苦しい状況にある。 本田は重ねてこう指摘する。
● 苦境の日産、ホンダも順風ではない 「いまは買ってくれているが、これから二年、三年先も同じように買ってくれるか、ということを有機的につかまえていないと、莫大な投資をやってマス・プロをやることはできない」 中国市場での日本メーカーの失敗は、こうした洞察の欠如から生じたと言えるだろう。また、日産が苦しいのは中国だけではない。2024年4月から9月までの半年間で、日産の営業利益(会社の本業で稼いだお金)は、前の年の同じ時期と比べて90%以上も減って、わずか329億円になってしまった。 特にアメリカでの販売が苦しく、主力商品のSUV「ローグ」の新しいモデルの発売が遅れたことに加え、車を売るために値引きをたくさんしなければならない状況が続いた。 アメリカで人気が高まっているハイブリッド車の販売でも出遅れている。かつての社長だったカルロス・ゴーン氏の時代に決めた、ヨーロッパを重視する経営方針があまり良くない影響を与えている。 一方、本田が創業し、資本提携や合併の交渉相手であるホンダも、決して順調というわけではない。 2024年4月から9月までの売上高は過去最高の10兆7976億円を記録したが、最終的な利益は前の年より19.7%も減って4947億円になってしまった。特に7~9月の3カ月間の利益は、前の年の同じ時期と比べて60%以上も減少し、1000億円まで落ち込んでしまったのである。 ホンダも日産と同じように、中国市場での苦戦が大きな問題となっている。中国では電気自動車が急速に普及し、競争が激しくなっているため、車を売るために値引きをしなければならず、利益が減ってしまっている。 さらに、為替レートの変動や、新しい技術を開発するためのお金がかかることも、会社の収益を圧迫している。結果、今年度の利益の見込みを当初の1兆円から9500億円に下げざるを得なくなった。