東京五輪「中止」でも日本経済は終わらない
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今夏の東京五輪・パラリンピックが予定通り開催されるか懸念されています。五輪が中止になった場合の日本経済への影響については悲観的な声もありますが、果たしてそうなのでしょうか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
五輪向けインフラ整備は概ね完了
ここ数日、「東京オリンピックが中止になったら日本経済はいよいよ底割れか?」。このような趣旨のコメントを数多くみました。最初にお断りしておくと、筆者はオリンピック開催の可能性について何ら知見を持ち合わせていません。したがって、開催の可能性について本稿では触れず、経済的な視点のみを考えてみたいと思います。 そもそも、なぜ五輪によって景気が良くなるのでしょうか。それは、開催都市ではオリンピックに向けて競技場、選手村、交通インフラなどを整備するからです。今大会ではメイン会場となる新国立競技場を筆頭に、東京アクアティクスセンター、有明アリーナ、有明体操競技場、選手村を新たに建設したことによって、そこに景気刺激効果が発生しました。 また近年のインバウンド需要の拡大と相まって、交通インフラについても五輪を契機に刷新の動きが広がり、その代表格である羽田空港の発着能力の拡大はもう随分と進み、3月29日の運用開始を待つ状態になっています。
景気刺激効果のピークは2年前
お気付きの人もいると思いますが、筆者は「景気刺激効果が発生しました」と過去形で表現しています。これこそが本稿の趣旨です。すでにそれらの施設が完成しているということは、建設投資によって生み出された経済効果は、もうほとんど全て終わっていることを意味します。 こうした姿は、2015年に日本銀行スタッフが発表した分析によって示された通りです。分析レポートには、五輪関連の建設投資が大会開催の2年前、すなわち2018年に来ることが示されていました。やや意外に思うかもしれませんが、考えてみれば当然です。五輪に間に合うスケジュール感を前提にすれば、最も資材と労働力の投入が盛んになるのは、開催の2年前頃になるからです(ブラジルのように開催前日まで建設をしていればその限りではありません)。 つまり、仮に万が一、東京五輪が中止になったとしても、建設投資など五輪と直接的に関連する部分の景気刺激効果は、もうすでに大部分を享受しているわけですから、もはや心配する必要などないのかもしれません。