「ヒートショック溺死」は愛媛、鹿児島、静岡に多い理由…「暖房をつけても足元が冷える部屋」を放置してはいけない
■溺死は「家のお風呂」で最も発生している なぜ、日本では冬の溺死者数が圧倒的に多いのか? 【図表】月別溺死者数 令和元年 「溺死」というと、夏に海水浴場等で溺れることをイメージする方が多いと思います。ところが、月別の溺死者数は、実は圧倒的に夏よりも冬が多いのです。最も少ない9月に比べて、最も多い1月の溺死者数は9.6倍も多くなります。 では、どこで冬の溺死が起こるのでしょうか? それは家庭のお風呂です。 「ヒートショック」という言葉はだいぶ知られてきているかと思いますが、あらためて説明すると、「ヒートショック」とは、家の中の室温差に起因して、脳や心臓に負担がかかることをいいます。 特に危険なのが、冬の入浴です。寒い脱衣室で服を脱ぐと鳥肌が立つと思います。これは血管が収縮して、血圧が急上昇している状態です。そして、熱いお風呂に一気に浸かると血圧が急低下して、気を失ってしまうことがあるのです。そして、そのまま浴槽で溺死してしまうというのが、冬の溺死者数が増加する主な要因です。 筆者は、結露のない健康・快適な住まいづくりをサポートする会社を経営しています。本稿では、その専門家の立場から、ヒートショックを予防する方法について説明したいと思います。
■約10年間でなんと1.5倍に増加 厚生労働省の「人口動態調査」によると、高齢者の家および居住施設の浴槽における死亡者数は、平成20年の3384人に対して、令和元年は4900人に増加しています。約10年間で、なんと1.5倍も増加しているのです。 さらに浴槽での溺死以外に、入浴中の急死には、心疾患や脳血管障害等によるものも多いのです。消費者庁の2017年のニュースリリースによると、入浴中の急死者数は1万9000人/年にも上るとの推計があるとのことです。直近の交通事故死者数は、2678人/年ですから、交通事故死者数の7倍以上に上ります。 さらに、溺死者数の急激な増加傾向を踏まえると、入浴中の急死者数はさらに増えている可能があります。(厚生労働省の資料は死因別のデータのみのため、入浴中の急死者数の正確なデータはないようです) そして、この死亡者数の2~3倍程度の方々が救急搬送されて命を取り留めても、半身不随や車椅子生活等になってしまい、健康寿命を縮めてしまっていると言われています。 ■ヒートショックはむしろ温暖な地域で起こりやすい 消費者庁は、毎年のように入浴中の事故に対する注意喚起の情報発信を行っていますが、2020年のニュースリリースでは、安全に入浴するための確認事項として、次の5つを挙げています。 ---------- (1)入浴前に脱衣所や浴室を暖めましょう。 (2)湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にしましょう。 (3)浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう。 (4)食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴は避けましょう。 (5)入浴する前に同居者に一声掛けて、意識してもらいましょう。 ---------- これらの対策は、費用もさほどかからず、手軽にできる対策なので、ぜひ実行していただきたいと思います。 ところで、「ヒートショック」は寒い地域の話と誤解している方が多いようです。それはまったく違います。実はむしろ、温暖な地域のリスクのほうが高いのです。図表3は、都道府県別の冬の死亡率の増加率(4月から11月の月平均死亡者数に対する12月から3月の月平均死亡者数の増加割合:%)です。 そして日本の都道府県別では、1位、2位が栃木県、茨城県と、北関東の県が上位にありますが、むしろ注目していただきたいのは、4・5・6・7位に愛媛県、三重県、鹿児島県、静岡県といった温暖な地域の県が名を連ねていることです。 そして逆に、冬季死亡増加率が低いのは、北海道、青森県です。