古生物学者が解説。「古生物学」と「考古学」── その違いわかりますか
夏休み期間中、各地で恐竜展が人気を集めました。しかし、日本ではこうした化石などを研究する古生物学はあまり知られていません。 同じく発掘調査を行うことからイメージが重なりやすい考古学の研究とはどのように異なるのでしょうか。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、解説します。 ----------
一見似て非なるモノ
夏休みを利用して7月に2週間ほど日本に立ち寄る機会があった。実に3年ぶりのことだった。(1997年に渡米して以来、忙しさに流されるまま、ほんの数えるほどの回数しか帰国していなかったことに改めて気づかされる。)実家の家族メンバーや古い友人達と久しぶりに顔を合わせるのはやはりいいものだ。自然と会話も弾み有意義な時間を過ごすことができた。 旧友たちと会話を交わすうちに、一古生物学者としてひとつ、気になる事柄に遭遇する機会があったので、改めてここで紹介してみたい。こう切り出すと大げさに響くかもしれないが、決してそのつもりはない。(THE PAGEに掲載されている他の重大なニュースとくらべるとその重要性において格段の差がある。)今回はかなり個人的な理由と動機で書きはじめたことを是非ご了承願いたい。 私がアメリカで「化石研究に従事している」と告げると、かなりの頻度で「ああ考古学ですね」という返事を耳にした。「いえ、古生物学です。」こう正してもどうもピンとこないような表情を目の前にした。 「太古の昔に存在した化石にもとづく生物を研究する学問の一分野」。こうして大まかな説明をはじめたのも一度や二度ではない。現在メジャーリーグで活躍中の大谷翔平選手の今シーズンのホームランの数(2018年8月時点)より間違いなく多かったはずだ。 もしかすると「古生物学と考古学の違い」をはっきり認識していない人が、私の想像する以上に多いのではないだろうか? 私の記事を定期的に読んで下さっている方の中にも、この2つの言葉、またはサイエンスにおける分野の違いについて、普段気に留めていない方がたくさんいるのかもしれない。(筆者の思い過ごしかもしれない。) 両者は「古いものを探求する」「野外で発掘を行う」といった点で、似たようなイメージが持たれるのだろうか? 一古生物学研究者として、あえて一言述べさせていただきたい。両者は自然科学における「まるで異なる」研究フィールドに属している。欧米の大学で学位を取得しようとすれば、違う学部に属することになる。研究者になる上でのカリキュラム(大学で受講するクラスやプログラム等)、そして必要とする基礎知識(使用される教科書など)においても明らかな違いがある。 例えば同じ球技というだけで「野球とサッカーは非常に似たスポーツの競技だ」とコメントすれば、「ちょっと待ってくれ」と間髪いれず反論したくなるのではないだろうか。(その心理と個人的には似ているように感じられる。) それでは具体的にどのように区別できるのだろうか? 今回は少し趣を変え、あえて夏休みにふさわしいテーマと切り口として、この自然科学における2つの分野について、はっきり区別することを目的にすすめてみたい。