より効く、より副作用が少ないがんの治療を探す―研究・治験の最前線
医療の進歩に欠かせないのは、これまで治療が難しいといわれてきた分野での治療法の開発だ。 古くは天然痘や結核から近年ではインフルエンザまで、新しい治療薬によって我々が受けた恩恵は計り知れない。 京都大学の山中伸弥先生が発見しノーベル生理学賞を受賞した「iPS細胞」による治療が実現すれば、再生医療は飛躍的な発展を遂げるだろう。
近年は、特にがん医療の分野での新薬や治療法の開発が盛んに行われている。 がんの治療薬や治療法の開発は難しいとされているが、近年は免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬、免疫治療薬などの画期的な治療薬が続々と登場し、それらを使った治療法の研究も進んでいる。そんながん治療の開発研究について、武藤学先生(京都大学大学院医学研究科腫瘍内科講座教授)に伺った。
◇がんの治療は難しい
がんは、治療薬や治療法の開発がもっとも難しい病気の1つです。その原因は主に2つあります。 まず第一に、がんは遺伝子や分子の異常が絡み合った複雑な病気であるためです。これらの異常がどのようにがんを引き起こすのかは個々の患者さんごとに異なり、1つの原因に絞り込むことが難しいため、治療薬によって完全にがんを消滅させることが非常に困難なのです。 第二に、仮にがんの原因となる遺伝子や分子を特定したとしても、それをピンポイントで破壊することが難しいためです。中には、がん細胞を壊すための治療によって正常な細胞に影響を与えてしまう薬もあるでしょう。 このような理由から、安全性と効果を見込めるがんの新薬や治療法の開発は至難の業(わざ)といえます。とはいえ、がんの克服に向けた研究開発の必要性は言うまでもなく、世界中で研究開発が精力的に行われています。 その結果、近年は京都大学の本庶佑先生が発見した免疫を抑制するタンパク質「PD-1」などを利用する「免疫チェックポイント阻害薬」や、特定のタンパク質を標的にがんを攻撃する「分子標的薬」など、新しい治療薬が続々と登場しました。また、それらを使った治療法の研究も盛んに進められています。