古生物学者が解説。「古生物学」と「考古学」── その違いわかりますか
「古生物学」の研究対象
古生物(学)という言葉にふくまれる「生物」とは、当然ヒト(または人類の系列)だけでなく、全ての他の種も当てはまる。バクテリアからミジンコに及ぶ膨大な数の単細胞生物。ブナや杉などの樹木やシダ・コケ類そしてヒマワリなど花をもつ植物類。シイタケや松茸などを含むキノコ類(菌類)。昆虫やサソリ・蜘蛛などの節足動物はもとより貝やイカ、そしてクラゲやスポンジなどを含む膨大な数の無脊椎動物の種。そして魚類・両生類・爬虫類(鳥を含む)・哺乳類が含まれる脊椎動物もいる。 人類そしてその近縁の種は当然哺乳類なので、「古生物学」にならないのか? こんな疑問を持つ方がいるかもしれない。 人類の進化に関する研究は、便宜上、古生物学と区別し「人類学(Anthropology)」という独自の分野に組み入れるのが習わしのようだ。人類の骨格化石などをもとにした進化の探求は、「形質人類学(または自然人類学)」(Physical anthropology)と呼ばれることもある。(最古の人類の化石などは、この連載を通して何度かとり上げてきたテーマだ。)一方、「文化人類学(または社会人類学)」(Cultural anthropology)という分野もあり、例えば現在のエスキモーの生活様式やパプアニューギニアの一部族の風習データなどをもとに、人類史における特定の文化の起源や進化などの探求・考察をメインの目的とする分野もある。 化石研究にもとづく古生物学は、考古学(または人類学)と大きな隔たりがあることをはっきり認識してもらえただろうか? 長々と古生物学と考古学または人類学における細かな違いをあえて並べてみた。「それが何の役に立つ」といわれる方がいるかもしれないので、最後にいくつかただし書きを付け加えておきたい。 両者の違いを知ることで、私のこの連載の主旨である「生物40億年からのメッセージ」に関してより深い理解が得られるかもしれない。化石記録にもとづく研究は生物の起源、長大なマクロ進化、大絶滅、太古の環境などを探求するうえでカギとなる学問だからだ。我々人類は「どこから来たのか?」そして「何者なのか?」こうしたアイデンティティーにかかわる哲学的な問いかけにもつながる学問のはずだ。 21世紀の現在、自然科学の研究分野はますます「ボーダーレス化」が起きているようだ。例えば化石研究においても遺伝子学者の参加もみかけるようになった(こちらの「氷河期サーベルタイガーのDNA研究」記事参照)。そのため古生物学という分野の歴史的背景、そして具体的な概要を知ることは、基本に立ち返るという意味でも重要なのではないだろうか。 ― くしくもイギリスの偉大な哲学者・科学者フランシス・ベーコン(1561―1626)は「知識は力なり(Knowledge is power)」と唱えた。古生物学と考古学の違いも、ベーコンの説く「知識」の一部として、是非加えてみていただきたい。 夏休みも終盤となった。猛暑を避けるように近所の博物館や各地で催されている化石展・恐竜展などへ足を向ける方も多いのではないだろうか。その際、古生物学と考古学について、友人・知人にさらりと紹介していただければ、筆者としては望外の幸せである。