子育て応援賃貸1階にフードコート!? シェアキッチンで街の住民が得意料理ふるまい、交流で子どもにも変化 「オラ・ネウボーノ」東京都墨田区
居心地のよい場所づくりは、人のつながりを生み、才能を揺り起こす
「オラ・ネウボーノ」ができたことで、地域に眠っていた才能や交流が生まれているといいます。冒頭に出てきたSさんは「オラ・ネウボーノ」で開催されていた日曜日のマルシェで手づくりのバッグを購入しました。実はこのバッグ、ご近所のおばあちゃんが手づくりしているもの。おばあちゃんがマルシェのスタッフに「私がつくったバッグも売れるかな~?」と相談を持ちかけて、マルシェの店頭に並んだという「物語のある」アイテムなのだそう。 バッグひとつにも作り手、買い手の思いがあるって、本当にすてきですよね。
田中さんは、こうした市井(しせい)の人々のクリエイティブな行動について、以下のように話します。 「自分の家以外の場所でも、生産的な活動ができるというのを投げかけたいんですよね。今、自分の家以外の場所では、すべて消費行動になることに対して、違和感があるんです。『喫茶ランドリー』でも『オラ・ネウボーノ』でも、役割や肩書、役割を超えて、ちょっとでも何かを試みるという場所になったらいいなと」(田中さん) 喫茶ランドリーでは、「どんな人にも自由なくつろぎ」とうちだしていましたが、「オラ・ネウボーノ」でもそれは変わっていません。「街の人が、どれだけ自分の町を使えるか」「居場所をもてるか」を大切にしています。 「今って、街の中を見渡してみると、イヤホンをしてスマホを見て、まちや人に関心をもたなくなってしまっている人も多いと思うんです。でも、街にいてもいいよというサインを出したり、ちょっと違う活動がうまれるきっかけをつくるとまた違った側面が発揮できると思っていて。今、店頭には雑貨や本を置いていますが、もっと他の人にもたくさん入ってきてほしい。本当に立派なものじゃなくていいんです。たとえば、中古服とか使い古しおもちゃとか。子ども服やおもちゃって、フリマアプリでも売れるけれど、もっと顔の見える手放し方、価値のうまれる使い方をしてもらえたらいいな」(田中さん) 開発圧力の高い都市部は、きれいな高層ビルが立ち並ぶ反面、景色は画一的で、どこか味気なくなりがちです。安全のためのルールだらけで、ときに居場所がないな、息苦しいなと感じることすらあります。そんな1階の開発に対して、「それでいいの?」と投げかけたのが、田中さんの立ち上げたグランドレベルだと思うのです。マンションに住む人も、近所に住む人も、たたずめるような居場所があり、思い思いにのんびりと過ごせる、いわゆる余白があることこそが、今、まちや都市に問われているのではないでしょうか。 「1階が変わればまちが変わる」を合言葉に開業して今年で8年。当初は「なにそれ?」だったという反応も、「これこれ!こういうのがほしかったの」と理解が広がるようになりました。ひとつの店舗から、またひとつ、ひとつ。糸がつながって縁になるように。1階の革命は、確実に人々をひきつけつつあります。 ●取材協力 オラ・ネウボーノ 株式会社グランドレベル 株式会社萬冨 田中元子さん 株式会社グランドレベル代表取締役。「喫茶ランドリー」「オラ・ネウボーノ」オーナー。ライター・建築コミュニケーターとして、建築関係のメディアづくりに従事。2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーに、豊かな1階づくりに特化した株式会社グランドレベルを設立。空間・施設・まちづくりのコンサルティングやプロデュースなどを全国で手がける。2018年私設公民館として「喫茶ランドリー」開業。2019年より街中にベンチを増やすための活動「TOKYO BENCH PROJECT」を始動。主な著書に「1階革命」(晶文社)「マイパブリックとグランドレベル」(晶文社)ほか。
嘉屋 恭子
【関連記事】
- 「喫茶ランドリー」誕生から1年で地域に変化。住民が見つけた新たな生き方とは?
- スーパーマーケットの軒先をまちに開く!“ご近所さん”とつながる地域改革
- 築30年賃貸マンションの地下に”秘密基地"をつくった!地元を愛する大家兄弟が入居者や地域住民と相模大野で住み続けたい街めざす キチカ「パークハイム渋谷」神奈川県相模原市
- 入居者のための食堂、昼・夕食500円、朝食はなんと100円! 「トーコーキッチン」開店から9年目。入居者希望増、書籍化など、さらにすごいことになってた!
- 築36年賃貸が大人気の理由は”大家さん”?! マンガ1000冊読み放題(定期入替)やコーヒー無料などホスピタリティ満載「百合ヶ丘池上マンション」神奈川県川崎市