想像以上だった生態系クラッシュ──「水辺の外来種のラスボス」アメリカザリガニとの終わりなき戦い
もう一つの外来ザリガニ「ウチダ」も拡大
ザリガニは世界中におよそ600種いる。だが、日本の在来種はニホンザリガニのみだ。ニホンザリガニは暑さに弱く、北海道と東北地方北部にしか生息していない。 国内にはアメリカザリガニともう一種、大繁殖してしまった外来種のザリガニがいる。北米原産のウチダザリガニだ。1920年代、食用として移入され、国が先頭に立って繁殖を試みたものの、計画は思うように運ばず、残された個体が野生化した。低水温を好むため、北海道を中心に長野県、福島県などの一部地域で定着している。2006年に一足先に特定外来生物に指定された。
ただし、ウチダザリガニの防除も成功しているとは言い難い。むしろ、じわりじわりと生息圏を拡大させている。 なかなか駆除が進まないのは、ブラックバスやアメリカザリガニほど被害の実態が明らかになっていないからだ。福島県裏磐梯で駆除活動を行っているNPO法人・裏磐梯エコツーリズム協会の真野真理子が話す。 「そこまでちゃんとしたデータがないんですよ。素人じゃ、調べるのも大変なので。実感としては、ホタルが減ったな、というくらい。でも、専門家の人に言わせると、これだけの環境のところに、他の生き物がほとんどいないのはおかしいらしいですね」
6月某日、裏磐梯の今年最初の駆除活動に同行した。4カ所のポイントにそれぞれ二つから三つのカニカゴを設置し、翌日に回収する。まだ季節が早く数こそ少なかったが、カゴの中に入るのはほぼウチダザリガニのみだった。真野がため息を漏らす。 「水が温かくなってきたら、一つのカゴに何百匹も入りますから。うんざりしますよ。これ、無意味じゃないの? って。私たちもこんな小規模な駆除活動でいなくなるとは思っていません。でも、何もせずに手をこまぬいているわけにもいかないじゃないですか」
日本は「ザリガニ駆除先進国」、それでも終わりのない戦い
1匹のイトトンボが目の前の水草にとまった。まだ羽化したばかりのようで、乳白色の部分が残っている。汗と泥にまみれながら苅部が声を弾ませる。 「コバネアオイトトンボですよ。一時期、ここでもほとんど見られなくなったんですけど、少しずつ戻ってきてますね。大成果ですよ!」 成虫になると体がエメラルドグリーンに輝き始めるコバネアオイトトンボは全国に広く生息していたが、近年、減少傾向が著しい。地域によっては絶滅したり、最高ランクの絶滅危惧種に指定されたりしている。「最後のトンボの楽園」では、ザリガニ駆除とともに、在来植物の再生にも努めていて、そうした希少種が戻りつつあった。 今後、アメリカザリガニも、いよいよ特定外来生物に指定される見込みだ。今年5月、「飼育」を容認する規定を盛り込んだ改正外来生物法が成立し、懸案だった一斉放流を回避できるめどが立ったからだ。 ただし、これらの明るい材料も、ささやかな一歩にすぎない。日本列島を人間の体に例えるならば、アメリカザリガニは、ほぼ全身に「転移」してしまっている。少し前までは、南西諸島には生息していなかったが、今では、奄美大島にも、沖縄本島にも、石垣島にもアメリカザリガニはいる。それらすべてを駆除することなど、到底不可能だ。