想像以上だった生態系クラッシュ──「水辺の外来種のラスボス」アメリカザリガニとの終わりなき戦い
「水辺の外来種のラスボス」放置するのは科学的じゃない
2000年前後、ブラックバス害毒論がヒートアップしたことで、2005年には「外来生物法」が施行される。もちろん「外来種=悪」ではない。もとをたどれば日本人の主食である米(イネ)も外来種だ。ただし、特定外来生物と「特定」の2文字がつくものは、生態系への影響が大きく、やがて人間の生活や身体にダメージを与えかねないため、駆除などの対象となる。施行されてから今日まで、ブラックバスやアライグマなど156種がその対象となった。 ところが、今に至るまで、アメリカザリガニは特定外来生物の指定を免れてきた。というのも特定外来生物に指定された種は、飼育禁止となる。アメリカザリガニの場合は、およそ540万個体が飼育されていると推計され、飼育の道が途絶えると近くの水辺に一斉に放流されかねない、というのがその理由だった。 その論法に苅部は憤りを隠さない。 「もし、本当に一斉放流が怖いなら、そうならないよう検討すればいい。それを理由に指定を見送ったというのなら、思考停止も同然です。例えば、移行期間として、一定の猶予を設けるなどやり方はあるはず。アメリカザリガニもブラックバスと同じタイミングで指定されていれば、拡散を抑止ができた地域もあったと思います。僕はこれは関係者の未必の故意だと思ってます。水辺の外来種のラスボスみたいな存在を放置し続けるなんて、まったく科学的じゃない」 人の手によって連れてこられた外来生物を、都合が悪くなった途端、駆除するのは人間のエゴだとする向きもある。だが、苅部はこう反論する。 「閉鎖的な池にアメリカザリガニを放つということは、人間の世界に例えると、人が詰め込まれた部屋にトラを放すようなもんなんですよ。放された側の立場、在来種の気持ちも想像してほしい。池の中って、逃げ場がない。そこで、在来種がどんどん捕食されてしまう。次は自分の番かも……と、ただ、待つことしかできない。でも、トラの個体数を減らせば、助かるものも出てくる。もちろん、襲う側にも罪はない。ただ、このトラを放ったのは人間なんです。だったら、人間がケリをつけなければいけない。駆除する側も好きでやってるわけではないんです」