非業の死を遂げた天文学者・シュバルツシルト。アインシュタインも称賛し、その理解をも超えた彼の見つけた「解」とは
物理学でも最大の謎の一つとされているものが「重力」です。この記事では、重力と天体にまつわる重要な科学史を、新刊『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』から紹介します。 【写真】天文学者シュバルツシルト。アインシュタインの理解を超えた彼の見つた「解」 ブラックホールという星については多く読者が耳にしたことがあると思います。今回は、その存在がいかに物理学で予言されたのかを、その裏側にあった、非業の死を遂げた天文学者:カール・シュバルツシルトの功績とともに見ていくことにしましょう *本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「光で見えない天体」が存在する!?
18世紀、フランスの数学者ピエール・シモン・ラプラスとイギリスの天文学者ジョン・ミッチェルは、仮想的な星を考え、その星の表面でボールを真上に投げ上げる状況を考察しました。 そのボールを投げ上げるときの速さ(初速度とよびます)が小さければ、ボールは元に戻ってきます。しかし、どんどん初速度を大きくすれば、ボールが真上に到達する地点までの高さが大きくなっていきます。 ついに、初速度がある値に到達したとき、ボールは無限遠方まで飛んでいってしまいます。つまり、投げ上げたボールが戻ってこなくなります。このときの初速度を「脱出速度」とよびます。 星の質量が大きくなれば、星がボールに及ぼす万有引力は大きくなるので、脱出させるために必要な初速度も大きくなります。つまり、脱出速度は星の質量とともに増加します。
星の密度と質量が高くなっていくと…
一方、星の半径は星の表面の重力と関係します。 同じ質量の星ならば、星の半径がより小さい方が、星の中心から表面までの距離が短くなるため、その表面での万有引力はより強くなります。 ミッチェルは、「仮に太陽と同じ(平均)質量密度で半径が太陽の500倍の星が存在すれば、その星の表面での脱出速度が光の速さになり、光が脱出できない星となるため、その星を観測しても見ることができない」ことを指摘しました(ロンドン王立協会発行の雑誌『哲学紀要』にミッチェルが発表した論文からの抄訳)。 一方のラプラスは、ある質量の星を考えて、その表面での脱出速度が光の速さになる場合の星の半径を計算しました。彼はミッチェルと同じ現象に気づきますが、ミッチェルが仮定した天体とは異なりました。 「仮に太陽の約250倍の半径で地球の(平均)質量密度と同じ天体が存在すれば、その表面からは光が脱出できないため、暗い天体になるだろう」とラプラスは推測を述べました(ラプラスの著書『宇宙体系の解説』からの抄訳)。 ミッチェルとラプラスの計算における数値が異なる理由は、ミッチェルが太陽の平均質量密度を基準に選び、ラプラスは地球の平均質量密度を用いたことによります。現代の天文学的な言い方をすれば、ミッチェルは「恒星タイプの暗い天体」、ラプラスは「岩石惑星タイプの暗い天体」を想定したという違いです。 しかし、両者ともがニュートンの万有引力のもとで、光が脱出できない天体、つまり「光で観測できない天体」(Dark Object)の推論にたどり着いたことは大変興味深いです。
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