なぜメダル期待の女子バレーが惨敗し不安視された男子バレーが決勝Tへ進むことができたのか…「機能しなかったベンチワーク」
大会前は世界ランキングでは格下のケニア、韓国、ドミニカの3か国と同じA組に振り分けられた女子の決勝T進出は確実で、3位、あるいは2位抜けでメダルの可能性は高いと期待されていた。一方男子は開幕戦のベネズエラ以外すべてが格上で1次リーグ突破は不安視されていた。だが、蓋を開けてみれば結果は逆になった。 なぜなのか。 植田氏は、こう分析する。 「男子は元フランスの代表コーチのブランコーチが中心となり戦術面での指示が徹底していた。データをブランコーチが分析し、具体的な戦術を組み立てタイムアウトごとに細かにアドバイスを送る。選手との信頼関係も生まれ、ブランコーチのイズムがチームに浸透していた。フルセットマッチとなったイラン戦での最終セットは石川のサービスエースから始まったが、あの狙いどころなどは、ブランコーチの指示の象徴だったと思う。対して女子は選手たちが欲している科学的な根拠のある指示や情報を与えることができていなかったように感じた」 ひとつめの違いはデータの活用、戦術コーチの不在だ。 もう1点は、新戦力の台頭の有無だという。 「男子では高橋選手、西田選手という救世主が出てきた。彼らが石川と融合してチームの総合力が上がった。だが、女子には、そういう選手が出てこなかった。この5年で、様々な選手の入れ替えがあったが、選手層を押し上げることはできなかったように思える。古賀選手はスタッフの懸命の努力もあって復帰したのだろうが、こういうアクシデントがおき、黒後選手が不調になった場合に対応できるような選手も控えにいなかった。そもそもアウトサイドヒッターを3人しか入れていなかったメンバー構成にも問題はあったのだろう」 中田監督は5月からセッターに籾井を抜擢するなど、直前までメンバーを模索したが劇的にチームを変える新戦力は現れなかった。植田氏の指摘するように中垣内ジャパンでは高橋、西田が起こした旋風が決勝T進出の原動力となっている。 では、パリ五輪にむけてどうチームを立て直せばいいのか。 植田氏は「中田監督一人の責任ではない。協会として、この5年のプロセスをしっかりと検証すべきだと思う。五輪予選を戦わなくてもよかったわけだから、東京五輪から逆算して、どういうチームで挑もうとしていたのか。ビジョンはあったのか。そのためにどういうトレーニングを課し、どういうプロセスでチームを構築しようと考えていたのかをしっかりと洗い出して、失敗した点を見直さねばならないだろう。それもすぐにやらねばパリには間に合わない」と提言した。 57年前の東京五輪で「東洋の魔女」と呼ばれ世界に衝撃を与え金メダルを獲得した女子バレーが、同じ東京で屈辱の歴史を刻んだのは、あまりに悲しい結末だった。パリ五輪までもう3年。今度は、五輪予選を戦わねばならない。途方に暮れている時間はない。