日本にはたった47人しかいない、チャイルド・ライフ・スペシャリスト。病気の子ども・家族・きょうだい児の心の支えに【体験談】
遊びは治療のつらさをやわらげ、子どもをポジティブにしてくれる大切なもの
――ストレス緩和や不安軽減のための遊びとは、どのようなものですか。 石塚 子どもの年齢や個性、何を不安に感じているかなどによって変わりますが、たとえば、注射針をつけていないシリンジに絵の具を入れて、お絵描きをします。医療機器に慣れ親しむことで、恐怖心をやわらげるのが目的です。 治療や入院生活に後ろ向きになっている子には、嫌なことをホワイトボードに水性ボールペンで書いてもらい、その文字めがけて、ぬらして丸めたティッシュペーパーを思いっきり投げる遊びをします。「嫌なこと」が水に流れて消えていくのを見ることによって、自分の気持ちを整理し、治療に前向きになってくれることをめざしています。 「お医者さんごっこ」もします。子どもが医師や看護師役になり、これから受ける治療や、すでに受けた治療を再現するんです。治療前はこれから受ける治療への見通しや心構えができ、治療後は遊びを通して検査や処置を振り返りながら、子ども自身が言葉で伝えるのが難しい気持ちを表現し、心を癒やすことに役立ちます。 ――子どもたちの間ではやっている遊びをチェックすることもあるとか。 石塚 子どもが好きなことは、子どもに聞くのがいちばん。病棟にいる子どもたちが、私の知らないおもちゃやゲームなどで遊んでいるときは「それ何? どんな遊び?」と聞いて、教えてもらっています。また、はやっているボードゲームなどはつねにネットでチェックしていて、「これは喜ばれそうだな」というものを購入し、子どもたちを誘って遊んだりもします。
シェービングクリームと絵の具を使い、一緒にお弁当作り。女の子に笑顔が・・・
――これまで支援してきた子どもたちとのエピソードで、印象に残っていることを教えてください。 石塚 治療のために、小児病棟から別の場所に移った小学生の女の子がいました(※)。治療の影響でごはんが食べられなくなり、まわりにお友だちもいなくて、とても元気がなくなっていたんです。 少しでも楽しい気分になってほしくて、シェービングクリームと絵の具を病室に持っていきました。紙コップの中にシェービングクリームを出して絵の具で色を付け、トレイの上で目玉焼きや焼き鮭、おにぎりなどの形にして、お弁当を作ったんです。 女の子がとてもうれしそうに遊んでくれたのが印象的でした。「食べたいけど食べられない」気持ちを遊びの中で表現しつつ、楽しい時間を共有できたなと、私もうれしくなりました。 少し大きな子になりますが、中学生の女の子のお話です(※)。いつもは友だちと遊ぶのが大好きな明るい子ですが、体の痛みがつらく、ふさぎがちになってしまって…。体に負担をかけずにできて、その子が喜ぶ遊びは何かなと考え、その子、同じ病棟の友だち、スタッフ、私の4人で、カードゲームをしようと誘いました。 体力の関係でひと勝負しかできなったのですが、久しぶりにその子の顔に笑顔が戻り、「またやりたい!」と次への意欲を見せてくれました。 このような経験を通して、子どもにとって遊びは、生活の質を高めてくれるとても重要なものだと感じています。 ※ 個人情報保護の観点から、実例をもとにアレンジしています。