「住まいの貧困」解消へ…名古屋でがっちりタッグを組んだ異業種3社 「行き場のなくなってしまう人を見過ごせない」
こうして3社が協同する画期的な取り組みが始まったが、企業である以上利益は確保していかなければならない。通常の賃貸住宅よりも手厚いサービスの提供を目指しているが、入居者からは高額の家賃を受け取ることが難しい。しかし、「ナゴヤビル」の経営が行き詰まれば再び路頭に迷う人を増やしかねない。千年建設の岡本社長は「事業性と社会性の両立は当社にとって大きなチャレンジ。財務のプロに入ってもらい、緻密に計画をシミュレーションしている」と真剣な表情を見せる。 さらに今後について、岡本社長は「現在はシングルマザーの方の入居を想定していますが、ゆくゆくは地域の他団体にも協力の輪を拡げていって、仕事を失った方や外国籍の方など、ホームレス状態にある人が生活を再建するために必要な住まい確保の需要にも、広く応えていけるようになりたい」と意気込んでいる。
さまざまな企業や団体が、お互いの強みやノウハウを持ち寄って、困難な社会課題の解決、そしてその先に社会変革を目指すアプローチのことを「コレクティブ・インパクト」という。岡本社長は「ナゴヤビル」の取り組みについて、「コレクティブ・インパクトの考え方を大切にしながら、事業を進めていく」と話している。
政策に「ハウジング・ファースト」の理念を 中京大学・岡本祥浩教授(居住福祉学)
「ナゴヤビル」の取り組みはコロナ禍をきっかけに始まった。しかし、低所得者の住まいの問題は、決してコロナ禍に始まったことではない。現在の日本が抱える住まいの問題について、中京大学総合政策学部の岡本祥浩教授(居住福祉学)に聞いた。 ――現在の日本の住まいをめぐる問題の特徴は? 日本では仕事と住宅のつながりが強く、バブル期までは企業が福利厚生の一環として社宅を用意したり、終身雇用を前提にローンを組んで家を買ったりすることが一般的でした。1990年代以降、景気の低迷とともに非正規雇用が増加し、住宅ローンや家賃を払えなくなってしまう人が増えました。本来であれば、この時点で国や自治体が安価な住まいを提供するべきだったと思いますが、日本では住宅の供給をほぼ市場任せにし、むしろ公営住宅の戸数を減らしてしまいました。 ――貧困層の住まいに関する施策はないのですか? 2017年から、国と自治体が、高齢者、低額所得者、子育て世帯、障害者、被災者、外国人やDV被害者といった、住宅の確保の困難な人を受け入れる民間の賃貸住宅を登録してもらい、必要な人に紹介する「新たな住宅セーフティネット制度(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」が始まっています。低所得者などの入居を拒まない、として登録した住宅は、改修費の補助などが受けられます。しかし、登録住宅の戸数は伸びていません。また、登録住宅であっても貸主が「高齢者はいいけどひとり親家庭はダメ」などという条件を付けることができたり、設備や交通の便の良くない物件が目立ったりと、生活に困った人が本当に使いやすい制度になっていません。住める場所があればどこでもいい訳ではありません。低所得者であっても通勤や子どもの通学など、それぞれの人の生活に合った住まいをマッチングできなければ、苦しい生活からは抜け出せません。
――コロナ禍でさらに住まいの問題は深刻になっている? 欧米などでは政府が、コロナで打撃を受けた人の家賃の支払いを猶予する、滞納による立ち退きを要求することを禁止する、それに伴って経済的なダメージを受ける家主を支援する、といった施策を打ち出しています。日本でも家賃が払えなくても、家に住み続けられるようにする制度が必要です。住まいがなくなれば、就職も、支援につながることも難しくなります。また、屋外で過ごす時間が増えるため、感染症の拡大にもつながる可能性があります。安定した住まいの提供が最優先、という「ハウジング・ファースト」の考えに基づいた社会保障政策が必要です。 (石黒好美/nameken)