「住まいの貧困」解消へ…名古屋でがっちりタッグを組んだ異業種3社 「行き場のなくなってしまう人を見過ごせない」
そこで、岡本社長は名古屋市内で生活に困窮する人を支援する団体はないか、インターネットで調べた。シングルマザーやDV被害者を支援しているひとり親支援団体「リンクリンク」(名古屋市中村区) を見つけ、メールで事業への協力を依頼した。 リンクリンクの代表、大津たまみさんは突然の連絡に驚きつつも、岡本社長の提案に賛同した。シングルマザーの多くは非正規雇用で収入が少ない。ひとり親というだけでアパート入居を断られることもある。リンクリンクでは母子世帯の生活の相談を受けながら、自社でシェアハウスを運営したり、入居可能な物件を探したりしてきた。ただ、物件が見つかっても、老朽化がひどい、車のない人が生活するには不便な場所にあるなど、がっかりすることも少なくなかった。このように、支援活動をする中で、かねてから住宅確保の困難さに悩んでいた大津さんにとって、岡本社長の提案は願ってもない内容だったのだ。
住まいの確保に長年苦労してきたリンクリンクの意見も踏まえて、千年建設が今年4月に取得した建物が名古屋市東区にある鉄筋コンクリート造6階建ての「ナゴヤビル」。地下鉄の駅から徒歩5分で、名駅や栄といった名古屋市中心部へのアクセスも抜群。車がなくても生活に困ることはない。 建物は築38年と決して新しくはないものの、オートロックでエアコン付き。南向きで日当たりのよいリビングにはクローゼットもあり、母親と小さな子ども2人であれば、十分落ち着いて過ごせそうな広さだ。家賃は1DKで5万円程度を予定しているが、入居者の事情に合わせ、より低い金額での提供も検討するという。
そして、リンクリンクと共に、岡本社長のプロジェクトに欠かせない協力者となっているのが、物件を管理する不動産会社「マメカバ不動産」(愛知県東海市)。岡本社長が不動産会社を探している際に人づてに紹介された会社で、リンクリンクの本社が入居するビルの管理も手がける。 家賃滞納のリスクを考えれば、不動産会社が物件オーナーに低所得の方の受け入れを積極的に勧めることは考えにくい。しかし、マメカバ不動産の管理事業部長の坂田英嗣さんは「うちに来て『ここに来る前に、2件の不動産屋さんから断られてしまって…』などと話す生活保護受給者やシングルマザーもいます。自分たちが物件探しを断れば、どこにも行き場がなくなってしまう。このまま見過ごしてしまっていいのか、という葛藤がありました」という。一方で「どんな人にもそれぞれに合った物件を紹介する」という社の理念もあった。 「家賃を抑え、保証人がいない人にも借りてもらいたいという千年建設さんの思い。そして、入居者の生活や就職をサポートするリンクリンクさんがあってこそ成り立つ事業。当社も理念実現のため、一緒に挑戦しようと考えました」