生活保護引き下げを巡る裁判 原告敗訴も判決で「自民党の影響」と異例の記述 名古屋地裁
厚生労働省が2013年から実施した生活保護費の大幅な引き下げの撤回を求め、全国で1000人を超える受給者が国などを訴えている集団訴訟で、全国の先駆けとなる判決公判が25日、名古屋地裁であった。角谷昌毅裁判長は、生活保護基準の引き下げは厚生労働大臣の裁量権の範囲内であるとして、原告の訴えをすべて棄却した。 原告側は今回の判決について、「“国民感情”や“国の財政事情”といったマジックワードによって、厚労大臣の決定が何でも許されてしまう。最悪の判決」と厳しく批判している。
基準引き下げの手続きや厚労大臣の裁量が争点に
厚労省は2013年から15年までの3年間で、生活保護費のうち日常の生活費にあたる生活扶助費を670億円削減。うち90億円分は「ゆがみ調整」(世帯の人数や地域による保護費の偏りの調整)によるもの、580億円分は2008年から2011年までに物価が4.78%下落したことを反映させた「デフレ調整」によるものと説明していた。 しかし、厚生労働省の有識者会議である生活保護基準部会で部会長代理を務めた岩田正美・日本女子大名誉教授(社会福祉学)が、原告側の証人として「部会では『ゆがみ調整』で扶助費を増額すべき世帯もあると報告した。デフレ調整については議論すらしていない。私たちは財政削減のために利用されたのかもしれない」と証言し、大きな注目を集めた。 デフレ調整についても、原告は厚労省が物価指数の算出に特殊な方法を用いていると指摘。「ラスパイレス式」と「パーシェ式」という異なる2つの計算方式を混在させるなどの手法を用いて、物価の下落率を意図的に大きく膨らませていると主張していた。 背景には、2012年の総選挙で政権を獲得した自民党が選挙公約として「生活保護費の10%」削減を掲げていたことがある。原告側は、政権に忖度して厚生労働省が「10%削減ありき」で基準改定を進めたのではないかと訴えていた。 これに対し、国側は生活保護基準の引き下げは「生活保護法8条に基づく厚生労働大臣の裁量権の範囲」と反論。「大臣の裁量は関連規定によって条件付けられた範囲に限定される」とした原告と真っ向から対立していた。