「住まいの貧困」解消へ…名古屋でがっちりタッグを組んだ異業種3社 「行き場のなくなってしまう人を見過ごせない」
建設会社・ひとり親支援団体・不動産会社が連携して、住まいを提供し、生活面でも支援することで、生活に困窮した人をサポートしていく事業が、名古屋市で始まっている。事業を立ち上げたのは、名古屋市熱田区の建設会社「千年建設」の岡本拓也社長。かつてNPO法人「ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)」の代表理事を務め、社会的課題の解決に取り組むソーシャルビジネスの専門家という建設会社のトップとは別の顔も持っているユニークな社長の取り組みを追いながら、その背景にある日本の「住まいの貧困」について考えてみたい。
建設会社、ひとり親支援団体、不動産会社が実践する「コレクティブ・インパクト」とは?
生活困窮者向けの住居事業を開始した千年建設は1983年創業。名古屋市南部の工業地帯の工場の修繕を手がける地元密着型の建設会社だ。岡本社長は、父親の急逝を機に、3年前に会社を継ぐことになった。会社を継ぐ前の岡本社長は、公認会計士としてさまざまな企業の再生などを手がけた後、2011年から6年間、社会的な課題の解決に取り組む革新的な事業に対して、資金を提供したり、パートナーとして経営支援を行ったりするSVP東京の代表理事を務めた。さまざまな団体とともに社会課題の解決に携わってきた。 そんな岡本社長の原点は、大学を休学してバックパックで世界を回っている途中にたまたま訪れたバングラデシュで、後にノーベル平和賞を受賞するムハマド・ユヌス氏が設立した「グラミン銀行」のマイクロクレジット(無担保少額融資)という手法に出会ったことだ。シングルマザーを中心とした貧しい人たちに少額の融資を行い、借り手がそれを元手に仕事を始め、貧困状態を脱していくという仕組みを知ったことが、その後の活動につながったという。 急遽、建設会社の社長という立場になった岡本社長だが、コロナ禍で仕事を失い、さらに住まいまでも失う人が増えていることを報道などで知ると、ソーシャルビジネスの専門家として居ても立っても居られなくなる。そして、「建設会社と自身のソーシャルビジネスの知見。この二つを組み合わせた事業で、社会に貢献できるのではないか」と考えた。 「工場などの修繕を手がけてきた会社の強みを生かし、建物をリフォームして住居が必要な人に安価で提供しよう」。早速、2020年9月頃に社内で新事業のプロジェクトを立ち上げた。しかし、検討を進めるうちに、自社だけでは目的を達成できないと気づく。「家を失う人たちはお金や仕事、健康などさまざまな悩みを抱えていることが多い。物件を用意するだけでは問題の解決にはならない」 。住まいを提供するだけでなく、生活面のサポートも必要だった。しかし建設会社では入居者の生活支援まで見ることはできない。