なぜ井上拓真は“リーゼント”和気慎吾との地域タイトル戦に圧勝しても「兄(尚弥)との差はまだまだと痛感」と語ったのか?
プロボクシングのWBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王座決定戦が11日、東京・後楽園ホールで元WBC世界バンタム級暫定王者で同級2位の井上拓真(25、大橋)と、元OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級王者で世界戦経験もある同級3位の和気慎吾(34、FLARE山上)で争われ、井上が3―0で判定勝ちした。井上は4回に右でダウンを奪ったが詰め切れず「まだ60%。兄にもまだまだと言われそう」と、世界バンタム級の統一王者、井上尚弥(28、大橋)との距離を痛感したという。「全般的に見れば完封勝ち」と評価した大橋秀行会長は、再度バンタム級に戻して世界再挑戦を狙う構想を明かした。一方の和気は、試合前に急逝した恩師である前所属先ジム会長だった“名伯楽”古口哲氏に勝利を捧げることができなかった。
4回に強烈な右ストレートでダウン奪う
カウンターボクシングという新境地を開いたと言っていい。10センチ以上のリーチ差がある長身のサウスポーの和気を相手に高いガードでジリジリとプレッシャーをかけた。リードブローの応酬もないまま、互いにカウンターのタイミングを見計らうが、和気が右からワンツーと縦の動きを仕掛けてくれば、そこに危険な匂いがした左フックを叩き込み、踏み込んでくれば右のストレートを合わせた。 実父である真吾トレーナーの声が飛ぶ。 「打ち終わりに反応!」 己の反射神経と反復練習の成果のみに頼るカウンター殺法。それが冴えていた。 5年前に当時無敗のIBF世界同級王者、ジョナサン・グスマン(ドミニカ共和国)に挑んだこともある歴戦の和気の長所を消し、手を出したくても怖くて出せない“塩漬け状態”にしたのである。大橋会長曰く「ヒリヒリした見応えのある緊迫感」のあった序盤戦である。 その空気を打ち破ったのは「前に比べて体重の乗ったパンチも打てている」という自負のある右ストレートだ。 4ラウンド開始早々。左フックに目を散らせておいて思い切り右を踏み込んだ。ビッグパンチに和気は、尻餅をついてダウンした。残り時間は十分。34歳のリーゼントボクサーは明らかにダメージを負っていた。だが、仕留めきれない。追い打ちの左フックは空を切り、和気にしたたかにクリンチにからめとられた。右も大振り…和気は右目下をカットしたが、勝負を決めることができないままゴング。 リングサイドにいた“モンスター”と呼ばれる兄と比較されることが宿命となっている弟は、その兄を持ち出して、このラウンドを悔いた。 「自分自身もあそこで終わらせたい気持ちがあった。でも冷静さがなく、空振りが多かった。尚(兄)は、そういうところで仕留めてきている。その差がまだまだ大きいと痛感した」