なぜ井上拓真は“リーゼント”和気慎吾との地域タイトル戦に圧勝しても「兄(尚弥)との差はまだまだと痛感」と語ったのか?
パンチの力みは、中盤に入っても消えず、真吾トレーナーが「上下に打ち分けて!」「次に速いの!」と、攻撃に変化が必要なことと、強弱をつけることを指示した。 「(和気の)パンチは見切れていたし怖さはなかった」 拓真は、攻勢点と左フック、右ストレートで着実にポイントは加算していくが、二度目の山場は作ることができず、逆に和気をダメージから回復させてしまった。和気にステップワークを使われ、カウンターが効きにくいグチャグチャの展開に持ち込まれた。11ラウンドには、相打ちながら左のストレートを痛打されている。それでも最終ラウンドに捨て身の殴り合い。「最後まで倒しにいく姿勢」を見せ続けたのが、最強井上家のDNAだろう。 判定を聞くまでもなく「気持ち的にはポイントは取ったかなと。勝利は確信していた」というだけに、ジャッジの三者全員が「117―110」と圧倒的なスコアをつけてもリング上で派手に笑うことはなかった。 「完成度はまだ60%」と自己採点。 残りの40%は何か?と問われ、「ダウンを奪った後の詰めの甘さ。後半、相手に頑張らせたのが、いけないところ。一方通行でやらないとダメな試合。そこが反省点」と説明した。 試合直後には、まだ兄と会話はしていなかったが、「まだまだと言われると雰囲気でわかる。それは百も承知」と、おそらく正しい兄の推定コメントを自ら明かして笑った。 今回スーパーバンタム級に上げたのは新型コロナ禍で海外の選手を呼べない状況ゆえ「バンタム級に対戦候補がいなくなって」(大橋会長)の窮地の一手。 当初、OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級王者の勅使河原弘晶(三迫)にオファーしたが、IBF世界挑戦者決定戦内定のため断られ、和気にオファーした。ナチュラルな体格差があり、東洋太平洋王座を5連続KOで防衛した実績も伴い、しかもサウスポー。危険な相手ではあったが「ファンの臨むリスクのある好カードを組まなければならない」という哲学で大橋会長はマッチメイクした。拓真にとっても負ければ後のないチャレンジマッチ。しかも、1月にOPBF東洋太平洋バンタム級王者、栗原慶太(一力)を9回負傷判定で下して以来、10か月ブランクが空いた。状況としては拓真が硬くなり力んだのも無理はなかった。 それでも「相手が大きい分、スタミナを使うが、最後までスタミナは持ったしパンチ力の部分も階級差は感じなかった」と手応えがあった。 これでOPBF東洋太平洋スーパーフライ級、同バンタム級、そして今回のベルトと地域タイトルの3階級制覇を達成した。 大橋会長もプロの目をもってして合格点を与えた。 「ダウンを取って仕留めれば100%だったが、力んだね。拓真の課題が見えた。でも全般的に見れば完封勝ち。栗原、和気と日本トップ級2人に続けて勝ったんだから倒さなくても僕の評価は高い」 そして永遠に付きまとう兄弟比較論について一席ぶった。 「練習では最近で一番いい出来。試合では出ていなかったが、練習の良さを試合で出して生かせば、お兄ちゃんと違った持ち味、魅力がある」