4階級制覇王者の井岡一翔は本当に「日本人ジャッジ3人」の恩恵を受けてV3に成功したのか?
プロボクシングのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが1日、大田区総合体育館で無観客で行われ、王者の井岡一翔(32、志成)が、2位のフランシスコ・ロドリゲス・ジュニア(29、メキシコ)を3-0判定で下して3度目の防衛に成功した。3者が116ー112と4ポイント差をつけたが、勢いのある左右の連打で序盤から攻めたてられ、井岡自身も足が動かないなど出来が悪く苦戦した。悪いなりにもベルトを守ったのは、井岡の経験から来るラウンドマネジメントとメンタルの強さだろうが、新型コロナ禍の影響でジャッジの全員が日本人だったため挑戦者は「ジャッジがニュートラルなら違った採点結果になっていただろう」と不満を訴えた。井岡の次なるターゲットはIBF同級王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との2団体統一戦の実現だ。井岡の戦績は27勝(15KO)2敗。ロドリゲスは34勝(24KO)5敗1分けとなった。
「自分の持っているものを出せなかった」
いつもの井岡とは違っていた。 リードブローも冴えず得意の距離で戦えない。 「(相手は)1ラウンドから出てくると思っていた。メキシカン特有のリズム。入ってくるタイミングがつかみきれない。準備している選択肢はあったが、それをはめこむのが難しい試合だった」 鉄壁のディフェンス技術を誇る井岡が、第1ラウンドから右を痛打された。ゲストとして招かれた東京五輪で女子初の金メダリストとなった入江聖奈が、「ロドリゲスさんのツーワンを井岡選手がもらっていた」と目をつけていた右から左へと続くロドリゲスの「逆ワンツー」。しかも、体を沈ませるようにして上半身を動かしてから飛び込む独特の入り方をしてくることに戸惑った。 第2ラウンドにも同じ右のパンチをもらう。いつもの対応力が見られない。3ラウンドには、打ち終わりに至近距離からフックをフルスイングされて思わず後ずさりした。ショートレンジに入るとクリンチワークで腕を絡め取られ、なにしろ井岡の抜群の距離感を支える原動力である足が動いていない。 公開練習では、イスマエル・サラストレーナー直伝の「サークル・ラダー」を使った足さばきのファンダメンタル・ルーティンを繰り返していたが、そのステップワークを挑戦者の突っ込んでくるような勢いに乱された。リードブローにスピードがなく、少なかったのも、その影響だろう。ボクシングにおいて重要な意味をなす序盤戦を井岡は制することができなかった。ジャッジの1人は2、3、4ラウンドとロドリゲスを支持していたのである。 「自分の持っているものを出せなかった。よくないな、よくないな、と最初は悪循環。今どうすべきかに切り替え、やりたいことを我慢して戦った」 出来としては最悪である。大晦日の田中戦が鮮烈だっただけに、なおさら色褪せて見えた。井岡自身は、調整ミスは否定したが、「リングに上がってみないと本当のコンディションはわからない」とも答えた。そして「体と頭と別。体は、プレッシャーとかを背負い、何かがあったのかもしれない」と本音を漏らした。 ドーピング騒動で振り回されて、ボクシングに集中できる環境は作ることができなかった。「ケジメをつけて試合に切り替えたい」と、ドーピング問題で不手際を繰り返したJBCの謝罪を受け入れ和解したのが7月12日。しかも、新型コロナ禍の影響で、集中的にトレーニングを行いスパー相手にも困らない米国ラスベガスでのキャンプも張れなかった。一方で、注目度だけが高くなり「いろんなものを払拭して勝ちたい」というプレッシャーがあった。天才ボクサーの歯車を狂わせる条件は揃っていた。