なぜ井上尚弥は12.14両国で無名のタイ人を挑戦者に選んだのか…ベルト統一を狙うモンスターゆえの葛藤
WBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者の井上尚弥(28、大橋)が12月14日に両国国技館でIBF同級6位のアラン・ディパエン(30、タイ)と防衛戦を行うことが29日、正式発表された。約2年ぶりに国内リングに上がる井上は、オンライン会見を行い「何かを感じてもらえる試合をしたい」と意気込みを語った。来年4月には、WBC世界同級王者、ノニト・ドネア(フィリピン)かWBO世界同級王者のジョンリエル・カシメロ(フィリピン)との統一戦が計画されており、そのビッグマッチに弾みをつける上でも重要な世界戦となる。またセミファイナルではWBO世界ミニマム級王者、ウィルフレド・メンデス(24、プエルトリコ)に同級1位の谷口将隆(27、ワタナベ)が挑戦する世界戦が組まれた。
「何かを感じてもらえる試合をしたい」
2年ぶりとなる国内リングに、はやる気持ちを抑えきれない。 「日本での試合はWBSSの決勝以来2年ぶり。ようやく日本でできることに喜びを感じながら、その日に向けて、ひとつひとつ、いい調整をしたい。日本のファンの皆さんの前で試合をやることに凄く気合が入っている」 2019年11月に名勝負として語り継がれるWBSSの決勝でドネアを判定で破って以来の国内リング。新型コロナの影響もあり、昨年10月のWBO1位のジェイソン・マロニー(豪州)戦、今年5月のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)とのIBFの指名試合と、2試合を米ラスベガスで行ってきた。今回は、新型コロナの制限で5000人に制限されるが、「まだ動員は半分で限られた方の前でしかできないが、何かを感じとってもらえる試合にしたい」と2団体統一王者は言う。両国のチケットはプレミア化するだろう。 挑戦者のディパエンは、世界的知名度はないが、12勝(11KO)2敗で79%のKO率を誇る超好戦的なハードパンチャー。今年3月には、スックプラサード・ポンピタック(タイ)を棄権させてIBFパンパシフィック同級王座を獲得している。2019年6月には来日しており、後楽園ホールで2018年度東日本新人王の荒川竜平(当時中野サイトウ、現JB SPORTS)とノンタイトル6回戦で対戦、2回に強烈な右ストレートで2度ダウンを奪ってTKO勝利して関係者の度肝を抜いた。アップライトに構えるオーソドックススタイルでスピードはないが、冷静に距離をはかってボクシングができ、上体の柔らかさと、なにより、そのパンチ力には警戒を要する。 それでも井上はまだ詳しく映像を見ていないそうで「まだ1か月ちょっとあるので、これから映像を見て対策を練っていく。タイ人ボクサーには、根性があるなあという印象を受けている。油断せず、いつも通りしっかりと戦う」と語るに留まった。 無名のタイ人を挑戦者に選んだ背景にはベルト統一を狙うモンスターゆえのやむを得ない事情があった。当初は、WBO王者のカシメロか、WBC王者のドネアとの統一戦実現に照準を絞っていたが、カシメロが12月11日に同級1位のポール・バトラー(英国)と指名試合を行わねばならなくなり、ドネアとの交渉をスタートさせたが、ドネアもまたWBC暫定王者のレイマート・ガバリョ(フィリピン)と12月11日に統一戦を行うことをWBCから指令された。井上陣営としては統一戦をあきらめざるを得なくなった。 すぐさまWBA同級元王者で現1位のルーシー・ウォーレン(米)、同2位ゲーリー・アントニオ・ラッセル(米)、WBO同4位のニコライ・ポタポフ(ロシア)ら上位ランカーに打診したが、すべて断られた。相手からすれば「勝てない相手とやりたくない」が本音なのだろう。マッチメイクが難しくなるのは無敵の王者ゆえの葛藤だ。