なぜ 南雲克明 は消費者に感動を生むインサイトを掴めるのか? トリドールで実現した「感性」と「データ」の融合
NPSスコアが約4倍に
DD:インターブランドジャパンが運営し、国内全業界の主要なブランドが対象となる「顧客体験価値(CX)ランキングTM2022」では丸亀製麺が1位を獲得されましたね。 南雲:第三者のCXランキングでも評価いただいていますが、過去6年以上トラッキングしているNPSスコアでも大きな成果が出ています。厳しい試験をクリアした麺職人を増員して全店に配置していく3年間のプロセスで、NPSスコアは約4倍になりました。 麺職人プロジェクトも、初めは多くから反対されましたが、将来のお客さまをつくるのに必ず役に立つ、そしてブランドをもっと強くすることになる、ほかにはない構造優位となり選ばれるブランドになると見据えたものです。その結果、人を立てたブランディングによりNPSスコアや客数などの数字はもちろん、社員の誇りやモチベーションも高まりました。 DD:DX化で人員削減を進める企業が多いなか、まったく逆の戦略ですね。 南雲:そこが丸亀製麺の勝ち筋なんです。我々は従業員数を、前年の約120%近く増員しています。人を増やし、人の力を最大化する戦術の展開によって数字もCXも向上することがデータ上でわかっています。 裏側のDXは重要ですが、表側のDXは我々の強みではない。それよりも人の温もり、人がいるからこそできる体験価値が差別化であり、我々の強みを尖らせていくことになるのです。
データ×直感でキードライバーを見つける
DD:データサイエンスも重視していると思いますが、「KANDOドリブンマーケティング」にどう生かされていますか? 南雲:売上や客数、単価も見ますが、それ以上にブランドが選ばれるための消費者を動かすキードライバーを把握することが不可欠です。ブランドイメージに関する重要指標を週ごとにトラッキングし、さらにSNS上の声やCSへの意見も毎日リアルタイムにトラッキングして、重要指標のうち下がっているものには関連部門と連携し速やかに手を打ちます。 もちろん、データだけではわからないその奥にあるものを見極める必要もあり、自分が現場や消費者を見て感じた感性とデータを行ったり来たりして、最終的に正しいと思う手を打つようにしています。そして仮説通り機能しなかった時の二の手、三の手も用意してコミュニケーションをしています。 「お客さま感情や評価」を図る直感的なアンケートは店頭やレシートのQRコードから簡単なアンケートに飛べるようになっています。その感情や評価のデータを我々は「丸亀感動スコア」と呼んでいます。 毎月約7万件になり、店舗数で割ると1店舗で毎月約100件。翌日に各店舗で前日のスコアを見られる状態にしており、従業員を褒めるきっかけにしてモチベーションを上げています。評価の低かった項目をすぐに見直して改善し、できるだけリアルタイムでCXが向上できる仕掛けにしています。 また、現在の従業員約3万人のEXを測れる仕組みを準備しています。この「丸亀ハピネススコア(仮称)」は、チームはもちろん個々のモチベーションはどうか、働き甲斐はどうか、チームとしてPRIDE(誇り)が減っていないかなどが見られるようになります。 ハピネススコアが上がるということはモチベーションも上がっているということで、お客さまへのサービスも向上します。すると感動スコアとハピネススコアがスパイラルアップし、ブランドバリューも上がるというわけです。 DD:非常に理想的な循環ができているように思いますが、課題はありますか? 南雲:感動をつくり、感動体験を提供してきたのがこれまでの丸亀製麺でした。これからは、感動をつくり続けるのは当然ですが、従業員の働く幸せをつくっていくことだと考えています。働く幸せが感動をつくり、感動がお客さまをつくる。そのためにも従業員一人ひとりのコンディションを可視化し、店舗ごとの課題に沿ったアクションをしなければなりません。 DD:マーケティングチームがHR領域にも関わっていくということでしょうか。 南雲:従業員のインサイトを知ることもお客さまのインサイトと同じように重要です。HR領域とマーケティングで持続的な成長へつながるハイブリッドモデルをつくり、業績が伸びることを証明したいんです。 インサイトを探るのは、やはりマーケティングの知見や感性が必要なので、我々のチームでトラッキングしていき、働きたい組織、選ばれる企業を目指していきます。 DD:事業の本筋はリアル店舗であり、人の温かさですが、裏側はデジタルが支えているわけですね。 南雲:我々にとってデジタルは我々にしかできない体験価値を支えるものであり、目標を実現するツールです。ハピネススコアはデータサイエンス会社と一緒につくったAIでデータをとっていきます。
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