なぜ 南雲克明 は消費者に感動を生むインサイトを掴めるのか? トリドールで実現した「感性」と「データ」の融合
ドーナツで今までにない顧客体験を提供
DD:ことし6月に販売開始された「丸亀うどーなつ」も、感動を生むための新商品ということですね。 南雲:「丸亀うどーなつ」は、発売開始3週間で300万食を突破しました。全店に麺職人を置くというアイデアもそうですが、「丸亀うどーなつ」の全店発売も約3年前から構想していたものです。 テスト販売は好調だったものの全店で展開するオペレーションの難しさから最初は「無理だ」と経営陣以下、全員に反対されました。ですが、私は「絶対に新しい体験価値になる」と確信して粘り強く働きかけ続け、実現しました。 うどんからドーナツをつくるオペレーションは本当に難しく、店舗からも断られていたのですが、数カ月に一度「どう? できそう?」と商品企画・開発担当に尋ねていたので、みんな「また言っている」と呆れていたと思います。それでもみんなで知恵を出し合い、商品開発担当の努力もあり3年かかって全店で販売できるようになりました。 うどんから生まれたドーナツで今までにない顧客体験が提供され、UGCやリアルな口コミもたくさん生まれています。実際にお店に行くと、「孫に頼まれた」と並んでくれている方もいました。今までにない会話が生まれていて、元々あった外食の価値を取り戻す商品、つまり家族が笑顔で会話をするという商品としても機能していると確信しました。 DD:昨年は「丸亀シェイクうどん」も大ヒットでしたが、こちらはどのような戦略だったのでしょうか。 南雲:コロナが5類に移行したタイミングで、外食の楽しさを再び体験してもらおう、というものでした。最初は車のカップホルダーに入れられたら、という発想から生まれたものですが、うどんをシェイクするというアイデアは、楽しい体験価値として当時の時流にも乗り、今まで丸亀製麺に来ていなかった若年層や女性を獲得し、大ヒット商品になりました。 外食の存在する価値として、消費者を笑顔にする何か新しい価値を提供し続けていかなければいけないと考えています。製麺所としてすべての店で打ち立ての美味しいうどんを提供するという普遍の体験価値と、新しい体験価値の「二律両立」、つまりトレードオンです。元々の価値を磨きながら進化を見せる。「丸亀シェイクうどん」も「丸亀うどーなつ」もそういう位置づけの商品でもあります。 割引キャンペーンや話題づくりのコラボなどもありますが、我々は絶対に不毛な価格競争をしません。そうではなく、ブランドの選ばれるパーセプションを蓄積していくこと、強みを磨いていくこと、機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットをしっかり設計する本質的なマーケティングを続けなければ、持続的に勝てないと考えています。 お客さまをつくるために、何を伸ばすことが一番大事なのか。つまり我々の強みを磨き続け、それを生かす戦略と顧客体験がとても重要です。
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