日程変更による重複で生まれた「前代未聞」。スーパーGT第5戦鈴鹿で吉本大樹とLM corsaが挑むもうひとつの挑戦
12月7~8日の2日間、三重県の鈴鹿サーキットで開催される2024年スーパーGT第5戦『SUZUKA GT 300km RACE GRAND FINAL』。いよいよ今シーズンの最終戦となるレースだが、この一戦で「前代未聞です。20年間やってきて初めて」というレースウイークを送るドライバーがいる。GT300クラスに参戦するSyntium LMcorsa GR Supra GTをドライブする吉本大樹だ。 【吉本大樹がドライブするSyntium LMcorsa GR Supra GT】 長年LM corsaの大黒柱としてスーパーGTを戦っている吉本は、今シーズンも河野駿佑とのコンビでSyntium LMcorsa GR Supra GTをドライブし3回の入賞を飾っているが、そんな吉本のもうひとつの顔が、3ピース・ボーカルバンド『doa』のボーカル“よしもとだいき”としての側面だ。 2004年に結成されたdoaは、スーパーGTと併催されるFIA-F4のオフィシャルテーマソング『HERO』、『WILD BEAST』、『Believe In Yourself』、『ウルトラマンネクサス』のオープニングテーマだった『英雄』など数多くのヒットソングをもつが、8月5日に突如として2024年12月31日をもって活動を休止、解散することが決定した。 その直前の7月にはバンド20周年を記念する『doa 20th Anniversary Live Tour 2024』が決定していたが、図らずも解散発表により、このツアーがdoaにとってのラストライブツアーとなっていた。吉本にとっても、ファンへの感謝を伝え、3人で悔いを残さないための大切なツアーとなっていた。 そんななか、当初8月31日~9月1日に予定されていたスーパーGT第5戦鈴鹿が台風の影響で延期され、12月7~8日に日程が変更されたが、吉本にとっては想定外の日程重複が発生してしまった。延期された第5戦鈴鹿の予選日にあたる12月7日には、愛知県の名古屋JAMMIN’でライブの日程が組まれていたのだ。 この件については、日程変更からスーパーGT第5戦のさまざまな条件が確定するまでには紆余曲折があった。吉本にその都度聞いてきたのだが、当初チームが想定したのは、予選でひとりしか走らず予選最後尾になるというパターン。ただ、第5戦はもともと長距離戦で第3ドライバー登録が可能だった。 そこで、2024年のポルシェカレラカップジャパンで圧倒的な成績を残し、OTGモータースポーツで育ってきた伊東黎明を第3ドライバーに起用することが8月30日に発表された。幸い会場が名古屋であることから、土曜の公式練習では「基本的にその週末はシュン(河野)に全部任せるつもり」で河野から走行を開始、バランスをチェックし吉本が確認を行い、すぐに吉本は名古屋へ。公式練習の残りは伊東の習熟に充てるプランが立てられた。 「黎明はTGR GR86/BRZ Cup以外で、フロントエンジンのレーシングカーに乗った経験がないんです」と吉本は言うが、スーパーGTでの経験も1シーズンあり、「心強いドライバー」だと信頼を置く。予選を河野と伊東に任せ、名古屋で2ステージをこなし日曜に鈴鹿に戻り、決勝を走るなかなかタフなプランが立てられた。 ただその後、12月の開催ということもあり、レース距離が350kmから300kmに変更された。この距離変更が発表されたのは第7戦オートポリスでの定例記者会見だが、この吉本の件が頭にあったことから筆者は「第3ドライバー登録は」と思わず質問したが、この際の返答は「なぜ300kmで第3ドライバーが必要になるのか?」というものだった。ドライバー登録が2名に変更される可能性があったのだ。 当然、吉本もLM corsaも「『えっ!?』となった」が、当初から第3ドライバー登録を予定していたチームは他にも多くあり、契約などの関係もあったことから、特例として今回の第5戦では300kmレースにも関わらず、第3ドライバー登録が認められることになった。吉本のプラン実行の体制は整ったというわけだ。 ここまで紆余曲折を経ていたが、「『仕事忙しいんで予選任せますわ』なんてあり得ないじゃないですか(苦笑)。でもチームも承諾してくれました」と吉本。 「今まで20年間こんなことは一度もなかったんですが、最後の最後に『こんなことある!?』という感じです(苦笑)」 20年間、ボーカリストとレーシングドライバーを両立させてきた吉本にとって「前代未聞」という週末がやってくる。最高のステージ、そしてレースでの好結果が実現するか楽しみだろう。 [オートスポーツweb 2024年12月05日]