もう一つの東京五輪…審判への一部SNS批判もあるけれどカヌー競技の日本人審判はいかにして夢舞台を“ジャッジ”したのか?
五輪競技を支えている“もうひとつの五輪物語”がある。各競技種目に多くの日本人が審判として参加している。“ハネタク”こと羽根田卓也(34、ミキハウス)が、2大会連続のメダルを逃したカヌー・スラローム競技に審判員として参加している田中秀幸氏(57、大分カヌー協会副理事)もその一人だ。競技者としては一流になれなかったが、審判として東京五輪出場を目指して夢の舞台に立った。メディアやSNSで「疑惑判定」として取り上げられるジャッジや「審判批判」も目に付くが、知られざる審判の世界を取材した。
“ハネタク”健闘のスラロームで酷暑の中集中力を切らさずチェック
葛西臨海公園内に作られた日本初の人工のカヌー・スラロームセンター。そのコースサイドに一人の日本人がいた。日避けパラソルの下。スマホを片手に時には移動しながら一時たりとも選手の動きから目を離さない。 「僕も初めての五輪。選手じゃないのに緊張しました。五輪だという興奮もありましたが、一方で冷静にしっかりと見なければならないという責任感も強く感じましたね」 カヌー・スラローム競技の審判を務めた田中氏だ。 猛暑の中、新型コロナウイルスの感染予防対策でマスク着用は必須。暑さ対策に帽子、サングラス、日焼け止めを塗り、袋詰め式のスポーツ飲料を凍らせたものをタオルで包んで首に巻く。足元のクーラーボックスには冷えた飲料を3、4本用意している。 「熱中症にならないように気をつけながら集中力を保たねばなりません」 2大会連続のメダルを狙った羽根田が出場したカヌー・スラローム男子カナディアンシングルでは、合計25か所のゲートが設けられており、選手は、ここを1.2メートルから2メートルの幅でぶら下げられている2本のポールに触れないようにして通過しなければならない。 このゲートの通過の有無をチェックするのが審判の主な仕事。カヌーはタイムを争う競技だが、ゲートを綺麗に通過できなかった場合、ペナルティとなりプラス2ポイントが加算される。昔は紙に書いて集計していたそうだが、現在はゲート通過ごとにペナルティーを手元の端末で入力し、選手がゴールした瞬間には、瞬時にポイントの計算が終わっている仕組みとなっている。 「ゲートを正しく通過したかどうかはポールの揺れで判別します。直視で判断するのでまばたきもできない。難しいのが選手の体でなくスプラッシュとよばれる水しぶきで揺れたものにごまさかれないこと。またスモールタッチと呼ばれる、ほんのわずかかすったものを見逃さないことが重要になります。大きくぶつかろうがかすろうがペナルティは同じです」 合計12人の審判が配置され、1人で7つから8つのゲートを担当。3人でひとつのゲートを同時に両サイドから“トリプルチェック”するシステムとなっており、もしスマホに打ち込んだ3人の見解が一致しなかった場合は、リプレー映像の確認による判定となる。