収益目的の「切り抜き動画」に違法性は?──2024年主要選挙とメディア #SNSの功罪
ネット戦略の中心は動画のSNSへ
「切り抜き動画を選挙で活用した最初の成功例は、2022年の参議院選挙における参政党とガーシーさん(NHKから国民を守る党)です。特に参政党は動画戦略に熱心でした。街頭演説では動画を撮りにきた人のため、前方にスペースを用意していたほどです」 こうした選挙でSNSが重要だという視点はその頃からあった。だが、多くの人はSNSの特性の違いを理解していないふしがあると高畑さんは指摘する。 「LINEやFacebookといったSNSは誰と誰がつながっているという人間関係に基づくコミュニケーションツールです。それをネット戦略の中心としている政治家は今でもいます。しかし、YouTubeやTikTokといった動画メディアは、人間関係ではなく、コンテンツ単位での関係性です。そうしたSNSでは、『いいね』と感じたユーザーの好みに近いコンテンツを、システムがアルゴリズムで提供していく。SNSと言っても両者は同じではないのです。ネット選挙の中心は、発見するツールである動画のSNSに移行しているのです」
そのため、YouTubeなど動画メディアでは、システムに推奨されて、自動的に「発見される」コンテンツ力が重要となる。そのためには、構成を練る、納得のいく内容にするなどコンテンツとして作り込むことが重要と選挙ドットコム編集部の伊藤由佳莉さんが言う。 「いいコンテンツであれば、切り抜かれ、拡散される。さらに、その切り抜きの元動画となる本編や他の関連動画も見てもらえる。こうしてエコーチェンバー(反響室の意。自分と似た意見や同様のコンテンツが多く表示される)状態になると、ユーザーはファンにもなり、さらに推し活的に献金してくれる人まで出てくるのです」
ネット上で「薪をくべ続ける」ことが大切
また、候補者からすればただ動画を上げればよいものではないと伊藤さんは指摘する。SNSでの選挙活動で重要なのは「薪をくべ続ける」ことだという。切り抜きの素材となる動画はもちろん、その後の対応も必要になる。 「たとえば、国民民主党の玉木雄一郎さんの場合、『切り抜きOK!! どんどんお願いします!』と公式チャンネルで明記。切り抜き動画をアップした人がXに投稿したら、その投稿に玉木さんはコメントを返す。対応が細かいんです。そうされると投稿した人は喜んで、また投稿する。つまり、熱心なファンをさらに一生懸命にさせるような取り組みを玉木さんはしてきているのです。また、新たなファン獲得のため、分野や属性の異なる人とも積極的にコラボし、届いていなかった層にも新規開拓を試みる。玉木さんはこれまで6年間、そんな『ネットどぶ板』を継続してきた。そういう努力の積み重ねが今回の衆院選での躍進につながったのだと思います」