収益目的の「切り抜き動画」に違法性は?──2024年主要選挙とメディア #SNSの功罪
その意味で、兵庫県知事選はまったく異なると伊藤さんは言う。兵庫県知事選での熱は「疑惑」だった。事実がわからない部分が多く、真実は何なのか、と疑問が様々あるところに立花孝志氏が参入し、一気に関心が高まることになった──というのが伊藤さんの見立てだ。 本来は選挙戦でも陣営にデジタルのプロが必要な状況になっているが、現状では無償のボランティアに頼るしかない。対価が必要なプロを雇ったら公選法違反になってしまうからだ。現状からすると、動画メディアを中心におかしな方向に行きかねないと伊藤さんは懸念する。 「政策立案能力より面白いことを言った人が勝ってしまうとしたら、選挙も政治もおかしな方向に行ってしまう。だとしたら、SNSをどう選挙に利用していくのか、時代に合わせたルールの見直しが必要でしょう。一方で、切り抜き動画のよい面もあります。切り抜き動画を見て共感したことで、これまで選挙に行っていなかった層が投票に行ったという声があります。そういうよかった点も強調しておきたいです。有権者がSNSで情報を求めるニーズは高まっており、SNSを選挙にどう利用していくのか、時代に合わせたルールの見直しが必要でしょう」
「選挙期間、広告収入を止めるのも一つ」安野修右・日本大学法学部専任講師
2024年の選挙戦に少なくない影響を与えた「切り抜き動画」。これは法的には問題ないのだろうか。公職選挙法を専門とする日本大学法学部専任講師の安野修右さんは「現状は適法」だと言う。
「収益目的で作られる切り抜き動画に違法性はないのか。取材を受けるにあたり、総務省に確認したところ『公選法上は全くない』と明確に即答されました。こうした行為に対して特段、処罰する規定がないのです。だから、適法です。ただ、現行法ではそうだとしても、正直、問題を感じないわけにはいきません。選挙制度の中で大きな穴が開いているという印象です」 公選法改正でネット上での選挙活動が解禁されたのは2013年。その時点では、動画の広告収入によって収益を上げることが想定されていなかった。スマートフォンもまだ普及半ばで、SNSはテキストが中心。YouTubeなど動画メディアも現在ほど多くの人が見ていたわけではないし、TikTokなどはまだ存在もしていなかった。現在は選挙を「コンテンツ」として捉え、それを稼ぐ材料にする人が増えた。2013年の法改正時点で想定されていないことが起きていると安野さんは言う。