「返ってきた言葉はひどいものでした」2度傷つけられる犯罪被害者 「心情等伝達制度」の光と影 #令和の人権
受刑中の加害者に、被害者や遺族の心情を伝える制度が、2023年12月にスタートして1年が経った。この「心情等伝達制度(刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・伝達制度)」は、開始から1年で136件の申し込みの受理があった。実際に聴取したのが122件、加害者への伝達まで及んだものが113件。遺族の言葉を真摯に受け止め、反省と謝罪の気持ちを表明する加害者がいる一方で、遺族に対して被害者をおとしめるような言葉を投げつける事態も生じている。利用した遺族を訪ね歩き、3回連載で実態と課題を探る。(取材・文:藤井誠二/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
受刑中の加害者に心情を伝えたが…娘を愚弄する言葉の数々
今年8月、福岡市内のある法律事務所。会議室のテーブルを挟んで、筆者の目の前に固まったように座る、小柄な女性。マスクをしているが、視線は前方の一点を凝視したままだ。 彼女は4年前、当時21歳の娘を、少年院を出たばかりの当時15歳の少年に殺された。加害者は、福岡市内のショッピングモール内でたまたま出くわした被害者に、包丁を持って襲いかかり、首などに突き立てた。殺人罪などで懲役10年以上15年以下の不定期刑が確定し、服役中である。 テーブルの上に置かれた数枚の用紙。見出しに「心情等伝達結果通知書」とある。日付は令和6(2024)年7月19日。書類に目を通すと、「いったいなんだ、これは。加害者は何を言っているんだ……」と、筆者は呆然とした気持ちになった。 昨年末の2023年12月1日、刑務所等で受刑中の加害者に、被害の当事者や遺族が、問いかけやメッセージ(心情等)を伝えることができる制度が始まった。少年刑務所や少年院も対象だ。 被害者側が利用を申し込むと、被害者担当刑務官らが、被害者や遺族のもとに出向き、心情等を聞き取って書面にまとめる(「心情等録取書」)。 被害者や遺族が加害者への伝達を希望すれば、刑務官が加害者に「録取書」を読んで聞かせる。さらに望めば、そのときの加害者の返答が、被害者や遺族に届けられる(「心情等伝達結果通知書」)。 母親はこの制度を利用して、加害者である元少年の返答を受け取ったのだった。そこに書かれていた一部を抜粋する。彼女は録取の際に、加害者への問いを託していた。 問い「公判時と現在の気持ちに変化はあるか」 返答「ノーコメント」 問い「娘に包丁を向けたとき、実際に娘を刺したとき何を感じたか」 返答「人はあっけなく死ぬんですね」 問い「娘はどんな表情をしていて、どのような気持ちだったと思うか」 返答「猿の顔、馬鹿ですね」 問い「私のこの話を、真正面から逃げずに向き合って。謝罪の意味を必ず答えてほしい」 返答「ごめんですね」 こうして書き写すだけでも、被害者を愚弄するような言葉に胸が悪くなる。筆者が書面に目を通し終えると、母親が口を開いた。かすかに声が震えていた。 「返ってきた返事はひどいものでした。事件から4年経っていたから、少しは事件と向き合っているのではないかと期待する気持ちがあったんですが……。謝罪するどころか、娘を侮辱し、まったく反省もしていないことがわかりました。裁判でも傷つけられているのに、さらにこの手紙で悔しい思いをさせられて……」 実は、心情等伝達結果通知書が送られてくる前、弁護士のところに連絡があった。そのまま伝えるには内容がひどく、心配だということだった。しかし母親は当初から、どんな結果でもそのまま伝えてほしいと希望していた。