「主婦年金」廃止は女性活躍の転換点 方針決定までの30年「連合」芳野友子会長に聞く #くらしと経済
「103万円の壁」「106万円の壁」など「年収の壁」が話題になっている。労働組合の中央組織「連合(日本労働組合総連合会)」は「主婦年金」と呼ばれる「第3号被保険者制度」の廃止を求める方針を決定した。同制度には「130万円の壁」があり、主婦がパートなどの仕事量を調整するケースもある。女性初の連合トップである芳野友子会長は「3号廃止は女性活躍の大きな転換点につながる」と言う。芳野会長に「3号廃止」提案の意図を聞いた。(文・写真:ジャーナリスト・国分瑠衣子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
会長就任時、「チャンスがきた」と思った
──連合は2024年10月、年金の「第3号被保険者制度」廃止を求める方針を決定しました。なぜこのタイミングだったのでしょうか。 私としては、遅いぐらいだと思っています。連合の女性たちの中で、3号の議論は1990年代からありました。 バブル崩壊後の1992年、共働き世帯数が専業主婦世帯をわずかに超えました。連合には47都道府県に女性委員会があります。加盟組合の女性役員が集まって、女性を取り巻く課題を議論する組織です。その女性委員会で3号も課題に上がり、「税と社会保障は、専業主婦がいる世帯中心ではなく、共働き世帯中心の制度に変えていくべきではないか」と話し合ってきました。
──当時そうした意見は提言できましたか? 残念ながら、当時の労働組合は男性中心で、専業主婦世帯の人たちが多く、(3号廃止に)大きな抵抗がありました。いい悪いではなく、抵抗があったんです。専業主婦の中には、育児や介護で働けない人たちが多かったのではないかと思います。ただ、共働きの女性たちからすると「私たちも育児や介護をしながら働いている」という声があったのも事実です。数少ない女性役員の声は連合の運動に反映できず、女性委員会での話にとどまってしまったのです。 ──それは残念ですね。 3号は不公平な制度です。考えてみてください。親の介護で仕事を辞めなければならなくなったときに、サラリーマンの夫(2号被保険者)と結婚している女性は、夫に扶養されるということで保険料を納めずに年金の3号被保険者になる。けれども、結婚していない女性は、1号被保険者となって自分で国民年金保険料を納めなければならない。ライフスタイルや、配偶者の有無で3号になるか決まる制度は、中立的な社会保険制度とは言えません。 そう芳野さんが指摘する日本の年金制度は「3階建て」になっている。1階部分は、国民全員が加入する「国民年金(基礎年金)」、2階は会社員や公務員が加入する「厚生年金」。この2つは国が管理し「公的年金」と呼ばれる。3階部分は、会社が任意でつくる「企業年金」や、個人が掛け金を拠出する「個人型確定拠出年金」(iDeCo)などがある。 「公的年金」の加入者は3つに分けられている。自営業やその配偶者、学生などの第1号被保険者、会社員や公務員など組織からの給与所得者の第2号被保険者、そしてその第2号の配偶者(98%が女性)の第3号被保険者。1号は個人単位で保険料を納め、2号は個人と組織が折半して保険料を納める。しかし3号は保険料を納めていない。そして納めていなくても、老後に年金を受け取ることができる。それがゆえに不公平、不平等だという批判が古くからある。 ──2021年に連合初の女性会長に就任しました。30年前から3号廃止を議論してきて、3号をどうするかも頭にありましたか。 「チャンスがきた」と思いました。トップの考えは組織を動かしていく上で重要です。会長になったタイミングで3号廃止の議論ができたことは非常に大きい。ともに労働運動をしてきた女性たちも思いを持っています。 年金制度は5年に1度見直され、2024年は財政検証の年です。2025年の通常国会に向け、厚生労働省が年金制度改革として見直しを議論しているところです。今、共働き世帯は約1278万世帯で、専業主婦世帯の約517万世帯を大きく上回っています。3号の人は、毎年約30万人ずつ減っています。さらに3号被保険者の半数以上が「専業主婦」ではなく、パートなどの労働者という実態があります。