難民1億人時代――クラスメイトの難民たちが明かす逃避行と現在
ウクライナ出身のグリゴリーもクラスメイトだ。 彼はウクライナ戦争に伴う難民ではなく、その何年も前から移民としてオランダでドライバーの仕事をしてきた。だが、移民とはいうものの、置かれた状況は難民と変わらないかもしれない。戦時下のウクライナに戻ると、どんな目に遭うか分からないからだ。 祖父に聞かされた「ソ連によるウクライナ人虐殺」の話も頭から消えない。祖父の幼き頃の実体験だ。グリゴリー自身もチェルノブイリ原発事故やソ連崩壊後の混乱した日々を実際に経験してきた。だから、自由の国・オランダにいても“国家”への恐怖は消えない。 難民ではないから、グリゴリーは自分の意思で帰国できる。しかし、ウクライナは戦争のさなか。18~60歳の男性は徴兵されるため、帰国すれば、前線に送られるかもしれない。 「いろいろ話すのはいいけど、詳しく書かないで。僕自身やウクライナに残る母の情報がどこかに伝わると、何が起きるか分からない」 本当は国に帰りたい、ウクライナが恋しいと繰り返していたグリゴリーは、最後にそう言って、申し訳なさそうに写真撮影も拒んだ。 ーーー 奥山美由紀(おくやま・みゆき) 山形県生まれ、オランダ在住。主に戦争で生まれた日系オランダ人やフィリピン残留日本人を取材。2016年、イタリア・コルトーナの写真祭で写真集がグランプリを受賞。2019年、スイス・ルガーノで写真賞を受賞。www.miyukiokuyama.com 写真監修 リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝 本記事は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」、「#戦争の記憶」の一つです。戦後80年が迫る中、戦争当時の記録や戦争体験者の生の声に直接触れる機会は少なくなっています。しかし昨年から続くウクライナ侵攻など、現代社会においても戦争は過去のものとは言えません。こうした悲劇を繰り返さないために、戦争について知るきっかけを提供すべくコンテンツを発信していきます。