トランプは「ウクライナを見捨てる」とは言っていない…それどころかトランプの対応が「良心的である」とすらいえるワケ
トランプ大統領就任前に必要な心と知識の準備
アメリカの次期大統領がトランプ氏に決まった。移民政策など内政も変わるが、外交政策も大きく変更となる。特に注目を集めているのは、アメリカのウクライナに対する政策だ。ただこれについては、期待や憶測から生じる混乱も見られる。 【マンガ】バイデンよ、ただで済むと思うな…プーチン「最後の逆襲」が始まった 典型的な混乱の例が、ポンペオ前国務長官への注目だ。ポンペオ氏は、ウクライナへの支援をさらに強化してロシアを駆逐すべきだ、という主張をして、主要メディアに注目されていた。第二次トランプ政権の外交政策の「暴走」を止めてくれる「トランプ氏に近い人物」として、もてはやされたのだ。だが結局は、ポンペオ氏の入閣は、トランプ氏自身によって否定された。そもそもトランプ氏自身が、ポンペオ氏を重用する趣旨の意図や行動を示したことはなかった。ポンペオ氏への注目は、本人の猟官活動に、メディアや言論人が相乗りして、自作自演で盛り上げていただけだったのである。 トランプ氏が、世界の超大国の一つであるアメリカ合衆国の大統領に就任することは、確定した事実だ。好むと好まざるとにかかわらず、あるいは肯定的に捉えるか否定的に捉えるかにかかわらず、この新しい現実から目を逸らすことは、国際情勢の分析そのものを放棄することに等しい。ましてアメリカは日本の唯一の軍事同盟国である。トランプ氏を無視したり、誤解したり、小馬鹿にしたりすることは、日本にとっては特に、多大な危険を伴う。 トランプ氏の就任前に、これまで暗黙の前提としていた常識を見直し、心と知識の準備をしておく必要がある。まずウクライナ政府を題材にして、思い込みを正すことについて考えてみたい。
トランプ氏はウクライナを見捨ているとは言っていない
巷では、トランプ氏はウクライナを見捨てるか、といった切り口で話題が作られがちである。トランプ氏は本当にウクライナを見捨てる、いやそれはさすがにできないのではないか、といった見方で、憶測が飛び交っている。 だがトランプ氏は、ウクライナを見捨てる、とは言っていない。選挙戦中にゼレンスキー大統領と会ったときも、むしろ「人が死に過ぎている」と述べる憐憫の念を基調にしながら、ウクライナ政府と協力していく姿勢を見せた。 トランプ氏は、ウクライナの未来を思えば、できるだけ早く戦争を止めたほうがいい、という立場である。ウクライナを見捨てたい、という立場ではない。 現在、ロシア軍は、急速に支配地を広げている。今年8月にウクライナがクルスク侵攻という合理性のない作戦を遂行してから、戦局はウクライナに不利な形で進んでいる。戦争を続ければ続けるほど、不利になっていくのは、ウクライナの方である。その状況の中で、一刻も早く停戦を実現したほうがいい、と助言する者がいたとしても、それは必ずしもその人物がウクライナに対して悪意を持っているからだとは限らない。ただゼレンスキー大統領の意見と違うだけだ。むしろ客観的に見れば、早期停戦の実現は、ウクライナの利益である。 実業家のトランプ氏は、イデオロギーを軽視し、実利を求める性癖を強く持っている。「国際秩序のためにウクライナは勝たなければならない」、「民主主義と権威主義の戦いでウクライナは勝たなければならない」といったイデオロギー的・感情的な主張に、トランプ氏は冷淡だ。そのため、これ以上のウクライナの戦争継続努力への支援は、アメリカの国益にとっても合理的ではない、と判断している。だがそれは「ウクライナを見捨てる」ことと同じではない。3年近くにわたって続く戦争の悲惨な現実を見て、戦争継続以外の選択肢を認めない立場をとらないだけだ。 もし本当にトランプ氏がウクライナを見捨てたいのであれば、ただ単にウクライナへの支援を停止し、欧州と関わること自体を拒絶するだけだろう。停戦に向けた外交努力を行うと公言しているのは、「見捨てる」どころか、多大な外交努力を払うという宣言であり、むしろ良心的な対応であるとすら言える。 ウクライナ国内でも、停戦交渉をするべきだ、という意見がすでに過半数を超えている、という調査結果もある。戦況を敏感に感じ取っているウクライナの人々の気持ちも、過去一年ほどで大きく変わっている。ただ単にゼレンスキー大統領の主張に同調せず停戦を語っている、という理由だけで、「トランプ氏はウクライナを見捨てる」、と騒ぎ立てるのは、現実に即した態度とは言えない。