「カーボンニュートラル=EV化」は正しいのか? 基礎から整理しておさらい
「EVだけ」で解決できない国や人々の事情もある
さて、ここまで述べてきたことをまとめれば、そもそも気候変動問題は重要な問題である。だから対策を進めていかなければならないのだということ。そして現時点での議論は、解決プランの方向性が若干乱暴であったということである。 では、どうあるべきなのだろうか? まずわれわれが陥りやすいのは自分の基準で全てを判断することだ。特にこうした国連関係の話で多いのは、先進国の都合で全てを決めようとするケースだ。日本に置き換えれば東京の都合だけで全ての話を進めるようなもので、地域ごとの状況や事情を加味しない議論ではいけない。 2018年のデータで見る世界の未電化人口は約8億6000万人。この人たちが暮らす場所にも物流のためのクルマは当然走っているはずだが、内燃機関を一律禁止したらどうなるだろうか? 暮らしが立ちゆかなくなる。さらにバッテリーの価格低減がなかなか進まない今、先進諸国においてすら、BEVを購入できない所得層は沢山いる。
こうした人たちにもCO2削減に貢献してもらわなくて果たして、喫緊の課題であるはずの気候変動問題は解決できるのだろうか? 「ゼロに出来ないヤツはやらなくて良い」という話ではなく、「2割でも3割でも出来る範囲で減らしてほしい」と考えるのが、誰も取り残さない温暖化対策だろう。そういう国々、あるいは人々がCO2削減に貢献していくためには、日本が得意とするHEVや高効率・軽量小型で安価なクルマは、大きな武器になるはずである。 この話に対して、「破壊的イノベーションによって、EVは間もなく内燃機関より大幅に安くなる」という声が必ず上がるのだが、もしそれが確実なのであれば、内燃機関の新車販売禁止を目指す年、例えば2035年には「BEVメーカーは全販売台数の半分以上を販売価格200万円以下で売らなければならない」という規制を作るべきではないか。少なくとも、日本では全販売台数の約4割が軽自動車、10~15%がコンパクトカーといわれており、つまり新車販売の約半分は200万円以下のクルマということになるからだ。これらのクルマを買っている人たちが乗り換えられるクルマをなくすわけにはいかない。 しかしながら、これを確約できるBEVメーカーはないだろう。地域や状況、経済力などにそれぞれ違いがある中で、皆がそれぞれの環境に応じたベストエフォートで温暖化を防止していく社会のためには、BEVだけの「シングル・ソリューション」ではなく、すでに多大な実績が積み上げられている「マルチ・ソリューション」も極めて重要なのだ。