「カーボンニュートラル=EV化」は正しいのか? 基礎から整理しておさらい
大きな方向性は「EV賛成」の中での差異
最後に重要な図を添えておく。これまで述べた論を筆者は各所で繰り返してきた。その結果「EV反対派」と言われることが多いのだが、それは全くの誤解である。
図の分類を見て分かるように、分岐の末尾には4種類の意見がある。筆者の見るところ、(1)の「内燃機関の即刻打ち切り派」と(4)の「EVを開発する必要はない派」はほとんどいない。筆者がここで述べてきたのは、(3)の「EV以外も継続すべき」を前提とした意見で、おそらく別の意見があるとすれば、ほとんどが(2)の「EV打ち切り時期確定派」だと思う。どちらも、大きなくくりでは「EV賛成派」の中での意見の違いでしかない。 実は、対立軸は「EVの開発をちゃんと進める前提で、他のものもやって行こうよ。技術は常に進歩するので、どんな新しい技術が出て来るかは分からないから」という(3)と、「EVだけが未来を救える技術であることは確定しているので、回り道などせずにEVだけに専念すべきである」という(2)の主張だ。 そして「スマホがガラケーを駆逐したのと同じく、破壊的イノベーションは古い技術を一瞬で過去のものにする」と続くのだけれど、必ずしも全てがそうであったわけではない。飛行機が発明された後、船は滅んだだろうか? 飛行機の輸送容量が船並みに増えて、輸送コストが下がれば船は滅びるかもしれないが、経済合理性という面で、船は今でも貨物輸送の主力であり続けている。 内燃機関の軽自動車、ダイハツ「ミライース」の価格は最安値で86万円。対して、日本で購入できて高速道路を走れるEVの最安値は、日産「リーフ」で330万円。筆者には少なくとも、現時点で内燃機関は“ガラケー”より“船”の方になる可能性が高く思えるが、もちろん未来はその時になってみないと分からない。
--------------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『EV(電気自動車)推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス)がある