追悼。伝説の名スカウト片岡宏雄さんに教えられたプロで成功する選手を見極めるコツ…愛するヤクルトの優勝を見届けて旅立つ
控え投手だった高津監督は片岡スカウトが獲得
サンスポの記者時代に見ていた片岡さんは、近寄りがたいスカウト部長だった。サングラスに長髪。その筋の“怖い人”に見え、春夏の高校野球では、甲子園のバックネット裏にいたかと思ったが、もう近くのおでん屋に場所を変えて関係者とだべっていた。 「ダラダラ見てもしゃあないやろ」 最後の無頼漢スカウトである。 真剣に仕事をしていない体でいたが、故・野村克也氏との確執など、数多くの逸話が残る古田敦也氏のドラフト指名の決め手は、トヨタ自動車時代の最終戦に、わざわざ足を運び、そこで打った最終打席のヒットだった。「最後まであきらめない男」とプロで成功する資質を最終確認したのである。 本当に親しくさせてもらったのは、THEPAGEの取材でお世話になった、この7年。年末年始に、その年のドラフト展望を聞き、春にセンバツ、夏に甲子園、秋にドラフトと、春夏秋冬、宝物のような、お話を聞く機会に恵まれた。 最初はタバコが吸える東西線行徳駅前の喫茶店。“特等席”がいつも用意されていた。 奥さんが亡くなられてからは、夫婦で移られていた介護付きのマンションの部屋を訪れ、すき焼きをご馳走になった。片岡さんは豪快に見えて酒は飲まない。私に缶ビールのロング缶をいつも2本用意してくれていた。片岡さんは、いつも事前に独自調査を終えていて、A4用紙に、選手名、ポジション、身長、体重、学校名、寸評を書き入れたメモを作ってくれていた。一人ひとりに◎、〇、△という印で評価が示してある。そのメモを傍らに一緒にドラフト候補の映像を見る。 「お前、意外と真面目やね。仕事好きだなあ」 文句を言いながら、プロで使えそうにない投手や打者は1球、1打見ただけでダメ出しである。ドラフト雑誌などで上位候補とランキングされている選手も一刀両断。一方で、「他のアングルの映像はないか」と言う選手は脈があり、映像を見ながら、どこが悪い、ここが良いと、解説をしてくれるのである。 きっと面倒だったに違いないが、文句を言いながら何十人もの映像を見てくれた。 浪商ー立教大で名捕手として存在感を示した。長嶋茂雄氏のひとつ後輩で、杉浦忠氏は、捕手に片岡さんを指名した。プロでも捕手として中日、国鉄でプレー。国鉄でも、また金田正一氏に「片岡でないと投げない」と言われるほどキャッチング技術が優れていたという。その後、新聞記者を経て、ヤクルトのコーチも経験してヤクルトのスカウトになるわけだが、キャッチャー目線が、スカウトの眼力の根底にあり、ピッチャーの品定めが好きだった。