追悼。伝説の名スカウト片岡宏雄さんに教えられたプロで成功する選手を見極めるコツ…愛するヤクルトの優勝を見届けて旅立つ
独特のチェックポイントがあり、ボールのリリース、下半身の使い方、軸とステップとバランス、そして体幹の強さを見る。映像から音はしないはずだが、「いい投手は、リリースする瞬間にビシッという音がする」と言い、最近では、ヤクルトのエース格に2年目で成長した奥川恭伸の星稜時代のピッチングを見て「音がする投手」と言っていた。 THEPAGEでは、この7年間、ドラフト前に「本当に獲るべき逸材」として片岡さんがピックアップしたドラフト候補を記事にしていたが、いつも“ドラフト後”の答え合わせが楽しみだった。記憶に残るのは、広島が2014年に有原航平の外れ1位で指名した野間峻祥だった。 地方の中部学院大出身で、事前のドラフト情報では、上位候補には挙がっていなかった外野手だが、映像を見た瞬間、「こいつは打つ。どこかが上位でくるぞ」と予想していた。恐るべき眼力である。 しかし、いつも片岡さんは、最後に、こうクギをさすのだ。 「スカウトの目なんか節穴だからな。答えがでるのは5年先、10年先」 一通りの仕事が終わってからの雑談が至福の時間だった。日ハムの監督として成功した栗山英樹氏、侍ジャパン監督に抜擢された稲葉篤紀氏から長嶋一茂氏、宮本慎也氏、広澤克実氏、池山隆寛氏らのそうそうたるメンバーの獲得秘話、週刊誌を騒がせた巨人の高橋由伸氏を札束戦争で逃がした話から、気になるドラフトのお金の話まで“書けない話”が始まる。桑田真澄氏と清原和博氏のドラフト真相も教えてもらった。ジャーナリストとして身を乗り出すような話が満載だった。 いつも、あっというまに3時間、4時間が過ぎていた。そのすべてが勉強になった。 「オレは遊んでばっかりでちゃんとした趣味がない」 相撲観戦、パチンコ、競馬、ボートが好きだった。 昔の武勇伝もよく聞いた。ついには船橋競馬や習志野の場外舟券発売場にお供させてもらったこともある。例年年末の有馬記念には、後輩に招待され中山競馬場に行くことを楽しみにされていた。 けれど生活の中心はスカウトを引退されてからも野球だった。シーズン中は、ほぼ1日中、テレビで野球を見ていた。春はセンバツ、夏は甲子園、母校、立教の東京6大学野球に、社会人野球、それが終わるとプロ野球。もちろんヤクルトの試合である。全試合見ていた。