追悼。伝説の名スカウト片岡宏雄さんに教えられたプロで成功する選手を見極めるコツ…愛するヤクルトの優勝を見届けて旅立つ
「オレはヤクルトを辞めて野球関係の付き合いは全部切った。球場などにいかんよ」という片岡さんだったが、早実の清宮幸太郎が話題になり始めた頃には、「やっぱり映像だけでは、ほんとのところがわからん。一緒に神宮でも見にいこう」と持ち掛けられた。4年前には立教大が59年ぶりに優勝した全日本大学野球選手権にOBと一緒に球場に足を運んだ。 やはり神宮球場が片岡さんの故郷だったのだ。 片岡さんと最後に話をしたのは今年の3月。 体調が思わしくない中、娘さんの計らいで、電話で話をした。 「頭のねじが1本外れたわ」と、豪快に受話器の向こうで笑った伝説のスカウトは、唐突に「本郷ちゃん、旅にいこうや」と言う。 「どこいきたいんですか」 「そうやな。宮崎かな」 今のように情報がいきわたっていない時代に、片岡さんは、「面白い選手がいる」との連絡が入ると、ふらっと一人で旅に出た。四国へいき、九州に出かけたと話していた。春になるとドラフト指名した選手が心配で宮崎のヤクルトのキャンプ地を訪れるのが定番だった。片岡さんは、ヤクルトのユニホームと、あの暖かい南風を恋しくなったのかもしれない。 葬儀、告別式は、親族の方々だけで11日に終えられた。スカウト時代から修復不可能なほど亀裂の入っていた故・野村克也氏のしのぶ会が神宮球場で行われていた日だった。遺族の方々は、配慮して片岡さんの逝去を伏せられていた。 一本気の片岡さんのことだから、天国にいっても、まだノムさんとケンカをしているのかな。 ふとそんなことを思うと、別段用もないのによく電話で話した忖度無しの心地いい片岡節が、どこからか聞こえてくるような気がして涙が止まらなくなった。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)